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伏見稲荷大社 理想の森づくり /特定非営利活動法人 社叢学会

事業の概要

伏見稲荷大社の社叢(しゃそう)は、マツ枯れ、ナラ枯れの被害を受け荒廃している部分があります。以前神社から一定の場所を借り受け、イチイガシ等の植樹を行った実験区域があります。そこで植生変化と育成状況の調査を実施し、将来に向けて理想的な森林を実現させるべく、養生を行い、結果を報告します。これは滋賀・京都に多いマツ枯れ、ナラ枯れの森林再生への一つの指針となるはずです。

社叢学会の活動の写真

2016年9月12日、京都府の伏見稲荷大社の森に、特定非営利活動法人 社叢(しゃそう)学会の社叢管理実習に伺いました。事業は「伏見稲荷大社 理想の森づくり」です。

社叢学会の活動の写真
集合場所は伏見稲荷大社の儀式殿でした。ユニークな形の建物ですね。

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まず前回の報告など、理事の糸谷さんからお話がありました。

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続いて顧問の菅沼さんから、太古の歴史からの伏見稲荷大社社叢の植生の変化と、なぜ伏見稲荷大社の社叢にイチイガシを復活させるのか、簡単に説明がありました。

平城京遷都の後711年、稲荷神社が稲荷山に鎮座しました。800年代、空海が東寺五重塔を建設するため稲荷山や周囲の山から木材を切り出しています。当時の稲荷山には寺院建立に用いるような巨木が存在していたようです。

1400年代、応仁・文明の乱で稲荷神社と稲荷山は全山がほとんど焼失してしまいました。
その後の稲荷山はアカマツ林となり、昭和初期までマツタケが収穫されていたそうです。しかしこのアカマツ林も次第になくなっていき、マツノザイセンチュウのためにさらに少なくなってしまいました。その後はクヌギ・コナラ林、シイ・カシ林に変わりましたが、これもナラ枯れの影響でどんどん枯死している状態だそうです。

そこで、稲荷山のもともとの自然状態を考え、イチイガシの森にするのが最も理想的であるとして、この事業を10年以上前から進めてきたということでした。稲荷大社側の理解も得られ長期的な取組が可能になっているそうです。

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雨が降りそうなので少し前倒しで現地に向かうことに。伏見稲荷大社は海外からの観光客の人気がナンバーワンになったそうですが、その通りの海外からの人の多さに驚きました。

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鳥居のトンネル。現実離れした光景が続きます。

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しかし、すぐ鳥居の道から離れて森に向かいます。少し登ったところがイチイガシを植林したフィールドです。伏見稲荷大社から許可を得て、30メートル×50メートルを実験区として、社叢学会にだけ立ち入りが許可されている区域です。この苗木は実を拾って冷蔵庫で保存しておき、水に浮かべてみて沈んだものだけを植えて育てたもの。7年と10年前の苗木だということです。森林保全は本当に長いスパンで考えなければならないものなのですね。

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社叢学会ではこのように主な樹木にナンバーを打ち、位置関係を図面に書き起こして管理をしています。
糸谷さんは「この調査に参加しているのは、一般市民ではありません。全国に数十名しかいない社叢インストラクター(社叢学会認定)という資格を持っている人、あるいはそれに準ずる人だけなのです。ちゃんと講座を受けているので、作業についてもあまり詳しく説明しなくても大丈夫です。園芸高校の先生、樹木医なども来てくれています」と話してくれました。精鋭による調査なのですね。

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足下には目立つ桃色のテープにアルファベットを書いて結んだ苗木がありました。人が知らずに踏みつけてしまいそうです。観光客が迷い込むこともあるそうです。そこで金属の杭を四方に打ってビニールテープで取り囲む作業を行いました。

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これで完成。これなら間違えて草刈りといっしょに刈られてしまったり、踏みつけられたりすることもないでしょう。

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何カ所か、ナラ枯れの木を切り倒したものが積み上げられ朽ちていました。

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参加の皆さんはそれぞれに、日照を確保するために枝を落とす人、下草を刈る人など、自分からさっさと仕事を見つけて働いていました。ただし枝を落とすのも顧問の菅沼さんの判断を仰いでから。専門家の意見に従いながら作業が行われています。

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苗木と苗木の位置関係を測って記録するのも大切な仕事です。
A~GとH1、H2。合わせて9カ所のイチイガシの苗木の周囲を杭とテープで囲み終えたら、伏見稲荷大社の参集殿まで降りて食堂で昼食をとりました。お稲荷さんだけにキツネうどんや稲荷寿司もありましたよ。

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午後からはイチイガシの育成状況調査です。木の枝がどちらの報告によく伸びているか方位磁石で確認しながら何センチか測り記録に残していきます。

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もちろん丈も測ります。日照や降水量、地下の状態などさまざまな条件によって苗木の伸び方にも差がつくものだとのことです。
森の向こうには朱色の鳥居が見えています。

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ふかふかの腐葉土の下には、この崖地で見えている白い粘土層が隠れています。粘土層は栄養が乏しく、水を通さないので根を張りにくいのだとか。丘の頂上付近には腐葉土が少なく、すぐに粘土層になっているのでそこに植えた苗木が伸びないのではないか、とも言われていました。

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イチイガシの苗木の測量をしたら、大きな声で読み上げ、それを記録用紙に記録していきます。前回6月実施時の数字と比べると、どれだけ成長したかが一目瞭然ですね。
イチイガシは背の高いもので1.8メートル、低いものは0.25メートルと、同じ時に植えたのにかなりの差が出ていました。6、7年目にぐっと差が出たということです。背の低い苗木は人の通り道になっているので踏まれた可能性が高いとのこと。でも、今回テープで回りを囲んで赤いリボンも目印にしているので、今後は踏まれることはなくなるでしょう。がんばれ!小さなイチイガシ。

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また、苗木の周辺が暗いと周囲の木の枝を切り、明るくしてやりました。切る前の写真です。

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こちらは枝を切り落とした後の写真です。明るさが違っているのがわかりますか?
苗木の調査と草刈りや枝打ちを終えて、今回の調査と作業は終了しました。

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鳥居をくぐって帰ります。

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稲荷山の上まで鳥居が続いていて、ぐるりと一回りしながらお参りできるそうです。

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大鳥居の前で解散しました。

イチイガシはドングリの中でもあく抜きしないで食べられるので、昔から食料として大切にされてきました。稲作以前には特に重要な食料だったそうです。
900年代には稲荷神社が正一位に列せられたそうです。イチイガシの「イチイ」も同じく一位。イチイガシを稲荷山に復活させるのは言葉の上でもぴったり、なのかもしれません。

糸谷さんは「これから年に1、2回は今回のような調査を行ってイチイガシを見守っていくつもりです。苗木が生長していたので、杭はもっと高くしなければなりませんね。今年(2016年)の11月下旬には、定例研究会として、この活動の10年間と、ここ1、2年の報告会を行う予定です。社叢学会会員はもちろん、伏見稲荷大社関係者の皆さんにも現地を見てもらいます」とおっしゃっていました。

伏見稲荷大社の社叢が太古の様相を復活させるまでには、どれくらいの年月がかかるのでしょうか?それでも苗木を植えなければ、森はやせて荒廃するでしょう。社叢学会のように長期展望を持った息の長い活動が期待されます。

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