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野生傷病鳥獣の救護追跡事業 /放鳥’s

事業の概要

さまざまな原因で傷ついた野生動物(傷病鳥獣)を、確実に野生復帰させることで生物多様性保全に寄与しています。治療・リハビリテーションの技術向上のために、放野後の追跡調査・生存確認は欠かせません。治療等の効果を検証し、その結果を救護活動に活かすとともに情報発信も行います。

放鳥's 活動の写真

2017年5月13日、土曜日の朝、放鳥’s(ほうちょうず)の皆さんが集まったのは、奈良県奈良市佐紀町にある、平城宮跡の駐車場でした。昨年7月末に奈良駅前のマンションで幼鳥で保護されたチョウゲンボウを、今日の午後からここで野に放すのです。保護されたのは、ここから約3キロのところだそうです。

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放鳥’sは、鳥だけで無く、傷ついた野生動物(野生傷病鳥獣)を保護し治療とリハビリを行って、再び野生に返す活動を続けています。ただ、野山に戻しておしまい「良かったね」といかないのが自然の厳しさ。そこで、野に放った後の追跡調査を行うことでデータを蓄積し、よりよい治療やリハビリの方法、放野のタイミングなどを探っていこう、というのがこの事業の目的です。データはまとめて開示し、他の地域で同じ活動をしている団体や個人に役立ててもらうことも目指しています。

メンバーには、獣医師、動物看護師、バンダー(鳥類標識調査員)、学芸員、写真家等、さまざまな力を持った専門家が集まっています。野生動物を保護するのは法律によって定められた手順を踏まなければなりません。一般の人は勝手に傷ついた野生動物を家で保護してはいけないのです。放鳥‘sは法律をきちんと守り、専門的な研修を受けたうえで活動をしています。

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集まったメンバーは二手に分かれ、放鳥する場所の周囲を調べて回ります。広々とした平城宮跡には、さまざまな鳥の声が聞こえ、たくさんの命の存在を感じました。確かにここなら鳥の餌も多そうです。

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何を調べているのか、と思ったらカラスの巣の確認だそうです。そう言われてみると、広い平城宮跡のあちこちにカラスがいます。

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私は吉田さんと古園さんチームについて行きました。水路を渡り、木立を目指して歩きます。

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「あの木の枝にカラスが1羽いるんじゃない?」
「ほんとだ。じっとしているね。まだ飛ぶのに慣れていない幼鳥かな」とすぐに双眼鏡で確認。線路の向こう側、木の上に巣があるようでした。
歩いていると近くの草むらにカラスの羽根が1枚落ちていました。カラスの存在を感じます。

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こういう並木の中が怪しい、と巣を探しながら歩きます。でも見つけることはありませんでした。

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りっぱな大極殿を見ながらカラスを探します。

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サギでしょうか?ひっきりなしに鳥が飛んでいるのが見られます。オオヨシキリ、ヒクイナ、ヒバリ、セッカなど、お二人は鳴き声だけで鳥の種類を教えてくれます。詳しい!

集合時間までに駐車場に帰らなければ、と平城宮跡を横切る電車の線路を横目でながめながら歩きました。

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集合場所に戻ると、そこに放鳥’sの代表、境さんが合流していました。保護していたチョウゲンボウをシェルターのある滋賀県から運んできたのです。

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現在換羽期ということで、一枚ずつ抜けていく羽根に番号をつけ、左右尾と分けて保存してありました。

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先ほど二手に分かれて確認したカラスの巣の位置情報を地図に落としていきます。ここが放鳥に適しているかを判断します。カラスの巣は周囲の木立にあるので、中心部なら大丈夫そうです。草丈があまり高くなく、餌となる虫やカエルが見つけやすいという状況はチョウゲンボウを放すのに適しているということでした。

どうしてこんなにカラスの巣を気にするのか尋ねたところ、以前放鳥したフクロウが、飛んで行った神社の杜で翌日カラスに殺されているのが発見されたことがあるからだとか。カラスは巣を守っている時、かなり凶暴になるので、それを恐れて念入りに下調べを行っているのでした。悲しいできごとですが、そのことがあってこそ、今回のチョウゲンボウの放鳥は安全性を高められるのですね。

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ここで本日の主役、チョウゲンボウが登場しました。小さいながらもハヤブサ科のれっきとした猛禽類です。両足に皮ひもをつけ、30センチくらいのロープに繋がれ専用の台にとまっています。

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つぶらな瞳がかわいく、少し子どもの面影を残しているのかもしれません。本来なら昨年に巣立ちを終え独り立ちしているはずですが、遅れてのデビューです。大きさはスマートなドバトといった感じでしょうか。体重はわずか220グラムしかないと聞いて驚きました。

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尾羽から発信器がのぞいています。

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暴れないようマスクを着けられて、放鳥の準備開始です。

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山階鳥類研究所のリング。足輪です。この番号を届けておくと世界中どこにいても個体を識別できるそうです。重さは0.7グラムくらい。

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メンバーの古園さんは足輪をつけることができるバンダー(鳥類標識調査員)という資格を持っています。

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そしてもう一つ、飛んでいる時にも見分けられるよう、赤いリングも取り付けました。こちらは重さ0.2グラムです。リングは量りの上にのせてあります。発信器とリングを合わせた重さは2.6グラムです。

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ノギスで足の計測。爪も恐ろしく鋭く尖っています。

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これが発信器です。尾羽に取り付けてあるので、羽根が抜けたら自動的に追跡終了となります。発信器が付いているのは最長でも3ヶ月程。あまり長くして負担を掛けないように配慮されています。

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放す時点での羽根の状態を写真で記録しているところです。それから、チョウゲンボウが餌を自分で獲れなくても、少しは大丈夫なようにと、強制的に餌を与えました。

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準備が完了したので、メンバーの皆さんは昼食をとることになりました。すぐそばにチョウゲンボウをつないでいます。

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人間が近づくと警戒の声をしきりに上げますし、風が吹くと羽ばたいています。早く自由に飛びたくてたまらない、という気持ちが伝わってきました。

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昼食が済んだら、いよいよ放鳥の場所へと移動です。地図を見て全員で方向を確認して、飛んでいった後の追跡の打合せも済みました。ここはカラスの巣も見つからなかったので、大丈夫そうです。

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広々とした草原の真ん中へ。

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足をつないでいた皮のヒモを切り、飛んで行け、と手をそっと前に動かすと、チョウゲンボウは羽ばたきました。

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草原の上を何回か旋回し、ツバメにちょっかいをかけられながら飛び、1分くらいしたら背の高い木にとまりました。

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ここから放鳥’sの皆さんの追跡の始まりです。

チョウゲンボウが翼を休める木を遠くから双眼鏡や肉眼で見守ります。三脚に据え付けた巨大な双眼鏡とスコープでは、遠くの木の茂みに隠れているチョウゲンボウが、まるですぐ目の前にいるように見えるのでびっくりしました。「羽づくろいしている」「下の方をしきりに見ている」「羽ばたきしている」など、葉っぱに隠れない限り、動きが手に取るようにわかります。

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角度を変え、もう少し近くの場所には、巨大な望遠レンズのカメラ担当の人がスタンバイしています。いくつか手分けして、どの方向に飛び立っても行方を確認できるような体制にしているのです。

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探索アンテナです。一気に長距離を飛んだ場合には車で移動し、電波を探索して場所を特定するそうです。

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尾羽に取り付けた発信器からの音波をつかまえ、受信機から電子音が響いていました。

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それから2時間以上経過しましたが、チョウゲンボウに動きはありませんでした。

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「ちょっと目を離した瞬間に飛んで行ってしまうことがあるんですよ」と古園さん。だから、双眼鏡から離れる時は必ず誰かと交代していました。双眼鏡ではなく、肉眼でも見ている人もいます。おしゃべりしながらでも目は離さず。一瞬も気が抜けません。

夕方5時になったので、私だけ最寄り駅に送ってもらい帰りましたが、放鳥’sの皆さんは交代しながら観察を続けていました。その後、チョウゲンボウは午後6時半に再び飛びましたが、どこからか現れたオオタカに追いかけられ、また同じ木に舞い戻ったそうです。

その後、メンバーの吉田さんから「日曜日はのべ8名が、夜明け前の4時半から夜8時まで追跡を実施し、途中見失っていた時間もありましたが、就寝場所の確認はできました。その翌日以降は電波を受信できておらず、現在探索中です」と教えていただきました。平日は平城宮跡周辺のメンバーが探索していて、週末には大捜索を行う予定だそうです。無事な姿が見つかりますように!

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追跡調査に移ってからは通行人やご近所の人たちにも、このようなビラをまき目撃情報を募りました。目撃情報は大切な生存の証になるのです。

このチョウゲンボウの放鳥とその後の情報は、放鳥’sのFacebookで随時公開されていますので、アクセスしてみてください。放鳥までの様子も見られます。また、ホームページには現在治療・リハビリ中の個体情報もあります。

▼Facebookページ 

▼放鳥’sサイト 


今回の事業で、野生傷病鳥獣を放した後の追跡が、その生存率を上げるための貴重なデータとなり、広く参考にされることを期待します。

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