びわ湖の森を元気に!!kikitoの元気の秘密を探る
夏原グラントでは、助成終了後も助成を受けていた団体との関係を保っていきたいと考えています。このシリーズでは、ステップアップ助成を受けていた団体にインタビューをして、その記事を順次アップしていきます。
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びわ湖の森を元気に!!
kikitoの元気の秘密を探る 一般社団法人kikito
夏原グラントは、2012年度から2016年度までの5年間、一般社団法人kikitoが行う「びわ湖の森の間伐材買取事業」に対し助成をしてきた。
kikitoは、滋賀県内にとどまらず全国的にも注目をされ、夏原グラントとしても助成後のkikitoが気になってきた。今回、kikito代表理事の大林恵子さん、主要メンバーの山口美知子さんにインタビューする機会を得た。
(文責:阿部圭宏)
<大林さん>
<山口さん>
●kikitoのできた経過
地域の森林資源を循環利用するための枠組みづくりをしようと、2008年5月に「湖東地域材循環システム協議会」が設立された。当初は、木々をだす、地元から聞き出す、森林の危機を脱するという意味合いでkikidasプロジェクトと言われていたが、最終的にはkikitoが愛称となった。
2012年には事業化を明確にしていくために法人化を検討し、一般社団法人kikitoを立ち上げ、名実ともに、kikitoという名前が世に認知された。
メンバーには、湖東地域を中心に、森林所有者、製材業者、木製品加工業者、家づくり団体、設計士、木質エネルギー事業者、行政など、森林に携わる人が集まっている。
●kikitoが取り組んでいること
「人の営みと森林が結びつく形をていねいに育てながら、びわ湖の森を元気にしていきたい」(山口さん)という思いをメンバーが共有し、事業が展開されている。
現在は、「地域“財”を活かした商品開発」「森林整備に貢献する紙製品の製作販売」「知る・学ぶ」「びわ湖の森CO2」といった4つの取組みを柱に活動が集約されている。
<パンフレットより>
kikitoが取り扱っている商品は、木のふぁいる、名刺ケース、鉛筆といった木を加工したものから、フラットファイル、名刺台紙、封筒のような紙製品といったものまで、こだわりのラインナップになっている。ネットショップをはじめ、東近江市役内の地産地消ショップ「Mitte」などでも買える。
<商品ラインナップ>
<Mitte写真>
●びわ湖の森の間伐材買取事業
「びわ湖の森の間伐材買取事業」が、2009年度から続いているkikitoのメイン事業である。仕組みは、切り旬である晩秋から冬にかけて、間伐材を山主さんから持ち込んでもらって、それをチップ化し、製紙工場で紙にするというものだ。
この事業は、間伐材を買い取ってどう使うかの出口戦略が重要であり、kikitoは困難に立ち向かいながらも、紙にしていこうと取り組んできた。製紙メーカーは信用が大切なので、知らないところのチップは引き取らないなど、紙の流通は難しいようだ。大王製紙株式会社は、米原市にある力興木材工業株式会社とは50年来の付き合いがあり、力興経由であれば、引き取ってくれることが分かり、力興への協力を取り付けた。力興木材工業が間伐材の買取りのときに取りに来てくれてチップ化し、大王製紙の三島工場(四国中央市)へ持ち込み、コピー用紙にしている。
「製紙と紙製品の開発に力を置いたことで収益を生み出すことができました」(大林さん)ということで、うまく循環の仕組みができた。環境省が環境配慮物品調達の基準を見直し、間伐材のバージンパルプ利用の対象になったことも追い風となり、「びわ湖の森の木になる紙」は、県内の自治体(東近江市、栗東市、日野町、多賀町)でも利用されている。
それに加え、九州にある「木になる紙ネットワーク」とイベントで出会ったのをきっかけに、一緒にPR活動をするようになり、そのお陰もあって、「近畿農政局、近畿四国森林管理局、奈良県庁などで使うコピー用紙は、「びわ湖の森の木になる紙」を選んで入れてもらえるように協力してもらっています」(大林さん)といううれしい結果につながっている。
「kikitoが直接取り扱う紙は100トンですが、実際に動いているのは250〜300トンです。売れた分は、1箱50円の還元金がkikitoに入ってくることになっています」(大林さん)と、循環の流れを生むコピー用紙の売上げがkikitoの大きな財源になっている。
●間伐材買取りが待ち遠しい
間伐材買取りは、毎年11月から2月にかけて、東近江市(旧永源寺町)、多賀町、日野町の3カ所で4回行っている。今年の買取りは、チラシのとおりの日程であるが、冬出せなかったものがあるので、例年、5月にも1回実施している。
<買取チラシ>
買取りを始めた頃は立米数で測っていたが、積み方のバラツキがあり計測が難しかった。夏原グラント助成を受け、簡易トラックスケールを借りて対応するようにしたことで、作業が迅速に行えるようになった。
「簡易トラックスケールは、結局、夏原グラント助成の一部を充当して購入しましたが、大活躍してくれるので、非常に助かっています」(大林さん)とのこと。大量持ち込みがあっても対応できるし、作業効率も格段に上がっている。
<簡易トラックスケール>
持込みの間伐材は、8センチ以上、1.5メートル以上という制限を設けている。短かったり、口径が細いと、トレーラへの積込みが難しかったり、チッパーへの負担も大きいそうだ。
「買取事業で集めている間伐材は200〜220トンです。直接持ち込みもあるので、それを入れると300トンにはなります」(大林)というから、多くの量が集まっていると言える。
買い取ったものは、その場でトン当たり6,000円が現金で支払われる。しかし、持ち込んでくる山主さんは、お金がほしいから買取事業に参加しているのではない。
大林さんは、「脇田先生が環境団体交流会のときに、岩手の地域づくりの事例を話されていて、嬉しい、楽しい、美味しいでないと人は集まらないとおっしゃったことに感動して」いつも食事を出しているそうだ。そういう空間に触れることを楽しみにしてくれている人が買取事業を支えているということなのかもしれない。
山口さんも「家で山や木の話はしないけれど、60、70代の方はできれば山を綺麗にしておきたいという思いをお持ちだし、木を持ち込んでくださることにこちらが感謝するので、それが楽しみになっている」と考えている。
その結果、買取事業のことを人に言いたくなり、口コミで新しい人が増えている。間伐材買取事業は人を元気にしている。
●企業との関係
夏原グラント活動報告書は、kikitoペーパーを使っている。平和堂のCSR報告書にもkikitoペーパーが使われていて、他の企業からのオファーもある。企業との関係づくりは広がっていると言えよう。
ダイハツ株式会社もCSR活動の一環で、竜王で間伐材を積み込んで持ってくる。名刺台紙を返しているので、ウィンウィンの関係になっている。
他には、平和堂が和南生産森林組合と琵琶湖森林パートナーシップ協定を結んだときに、kikitoがコーディネートしたこともあり、年2回、社員の森林整備の間伐指導などに当たっている。同様に、ブリジストンが彦根市日夏町財産区との協定のコーディネートも行っている。
●kikitoの運営のこと
現在の事務所は、有限会社坂東林業の湖東の森事務所にある。坂東林業とkikitoでスタッフ1人を雇用していたが、現在はkikitoでは雇用せずに、倉庫・事務所借用費と事務補助費を坂東林業に支払っている。
事務の多くは、代表の大林さんがこなしながら、メンバーが支えている。大林さんは、木材コーディーネーター養成講座を受講してきた。全回出席とならず資格は得られなかったが、「木に関わる人脈が広がり、今後、kikitoメンバーの専門家としての力を生かすことできる道筋が見えました」と、次のkikitoの展開が考えられている。
今、課題と考えているのは「発信力が弱い」ということである。これだけのことをやっていても、まだまだ知られていないことを実感するそうだ。発信力をどのようにつけていくか、kikitoの挑戦は続く。
取材を通じて
大林さんと山口さんの熱意、やる気がほとばしるインタビューだった。思いを形にするのは容易ではないが、常にチャレンジングに取り組まれている二人の行動力に、改めて感心した。