いろんな人が関わることで守られる環境と文化 〜プロジェクト保津川の活動の魅力を探る
特定非営利活動法人プロジェクト保津川には、2013年度から2017年度まで夏原グラントの助成を行ってきた。助成内容は、主に保津川での筏流しの復活をめざす筏プロジェクトの事業に対してのもので、行政、各団体、事業者等の連携をとりながら、流域の文化の再発見や環境保全をめざした取り組みを進めている。
今回は、プロジェクト保津川の代表理事の原田禎夫さんにインタビューした。
(文責:阿部圭宏)
●活動のきっかけ
保津川と言えば、トロッコ列車と保津川下りで有名である。90年代から川のゴミが急増して、保津川遊船企業組合の若手船頭2人がゴミ拾いを始めた。96年に500mlのペットボトルの規制廃止、コンビニの急増等を理由として、プラスチックゴミが増え続けた。
こうした船頭の動きは、角倉了以によって保津峡が開削されて400年を記念して、2006年に実施された「保津川開削400周年記念事業」へと続いた。記念事業は周年行事に加え、水運文化の伝承をめざした活動や多くの市民が参加した清掃活動があった。市民によって回収されたゴミは2.7トンにもなった。保津川に関わる市民や団体のプラットホームを発展させる形で、環境面の活動を継続するために、2007年7月にプロジェクト保津川が設立された。
<代表理事 原田禎夫さん>
●地道な清掃活動から
2007年10月から清掃活動を始めた。毎月実施していて、最初は人が集まったが、だんだん減ってきて、コアメンバーと佐川急便営業所の人だけになった。ホームページとブログでの発信を続け参加を呼びかけたが、清掃活動に人々の関心を向けるのは難しい。
川のゴミが海のゴミに直結することから、何とかゴミを減らしたい。そこで考えたのが、最上川ゴミマップにならった市民参加調査手法である。単に拾うだけではなかなか続かないので、調べることを考え、17の自治会に依頼して2009年から調査を始めた。
「調査に参加している人の意識が変わったのが大きいですね」という原田さん。今では、自治会は年3回の清掃活動を実施するまでになっている。
<保津川の清掃活動 集めたゴミの調査活動>
●上流と下流をつなぐ
清掃活動はゴミ拾いがメインで、あの人たちがいうからしょうがないと思われていても、やはりプロジェクトの清掃活動には、参加者数が増えていかない。確かに関心層は増えたが、それだけでは限界だった。「誰も川が大事だと思っていない。人と川との接点をつなぐことを考えるべきではないかという意識がメンバーの中で高まった」という。保津川では、上流の木材を下流に運搬する筏流しが行われていたが、日吉ダムができて筏流しもなくなくった。日吉ダムのダム湖「天若湖」では、「天若湖アートプロジェクト」が行われており、その中で筏をつくって湖に浮かべるイベントも行われた。
この筏イベントがきっかけとなって、プロジェクト保津川と亀岡市文化資料館が中心となって流域の団体に呼びかけてできたのが「保津川筏復活プロジェクト連絡協議会」(京筏組)である。
●筏復活プロジェクトの活動
筏復活プロジェクトは、2008年に60年ぶりの3kmにわたる筏流しを行った。地元小学生にも声をかけ、6連の筏を組んだ。これ以降、下流域や上流部でも筏流しが行われている。12連筏の再現や林業体験にも取り組んでいる。
「筏流しは流域をつなぐと同時に、世代をつなぐ役割を果たしている」と原田さんは言う。若い人にとっては今まで見たことない珍しいものだが、ある年齢以上の人にとっては懐かしい、記憶を呼び戻す効果がある。筏流しという文化と筏を組む技術を次世代につないで、残していくことが必要である。
<筏の組み立て>
<筏体験>
●活動を継続するために
筏プロジェクトの経費は、京都府地域力再生プロジェクトに採択されて実施できた。2013年度からは夏原グラントの助成を受けて継続できている。助成金を受けているときから安定的な資金獲得が必要であるとの認識のもと、グッズの開発などに取り組んできた。
材木は安いので、材木に付加価値をつけることが筏流しの伝承に貢献できることから、筏材も使って、木の風合いを生かした店舗や個人宅の内装、家具や雑貨、アート作品の制作等、幅広い用途を紹介している。
フォトフレームは、PTAや同窓会などで幅広く使ってもらっている。
<フォトフレーム>
<店舗内装への利用>
●各機関・団体との連携
協議会は多様なメンバーが揃うとともに、緩やかな組織構成になっている。筏流しを行うには、河川占用の面倒な手続きが必要だが、メンバーの府振興局から河川管理者の府土木事務所に話をしてもらうことができ、スムーズに許可を得ることができている。
保津川流域の山々は植林されていて、適伐期を迎えた木も多く、もともと筏を出すことを前提に植林されてきた。台風等の被害で風倒木が多くあって、これらが嵐山に押し寄せる、これをどうするのかというのも行政にとっては大きな政策課題だった。そうした観点からも筏流しは必要ということで協力を得られていた。
プロジェクト保津川は、プラスチックゴミ削減にも深く関わっている。マイクロプラスチック汚染は、原田さんの研究テーマでもある。亀岡市は、2018年に「かめおかプラスチック宣言」を出し、2021年1月から「プラスチック製レジ袋の提供禁止に関する条例」を施行している。
亀岡市の一連の環境対策に関して、プロジェクト保津川はトヨタ財団助成を受け、脱プラスチック社会に向けての提言が活かされている。助成金を使って一緒に市職員とアメリカへ調査に行った。行政からの委託・補助によってNPOに金が流れるケースがほとんどで、このように行政側に資金提供することはほとんどない。新たな協働の形を示しているとも考えられる。
●課題
新型コロナウイルス感染症では、大きな影響が出ている。2020年度は集客が見込めるイベントが休止に追い込まれたり、飲食を伴うイベントもできなかった。この中で、シンポジウムはカンパ方式に変えたら寄付が増えたというプラス面もあった。
専従スタッフを雇えるまでには至っていない。次の世代を育てないといけないと考えている。若い人の参加が増えてきているので、こういう人たちがコアメンバーになれるようにできればと考えている。
活動は、ゴミ拾いから踏み込んで次のステップに踏み込んでいく必要があると考えている。いろいろなネットワークの構築や実績を積み重ねたことで、行政からの委託事業が増えてきた。現在、亀岡市からゴミ調査業務委託、京都府から海ゴミ対策として由良川の調査委託、舞鶴市からもSDGS・海ゴミに関して委託を受けている。こうした調査委託などをしっかりと受けていく体制づくりも必要である。
●これからの展望
プラごみはすぐに解決できないし、林業再生もすぐにはできない。一朝一夕で解決できないので、ここは地道に活動していくしかないと思う。
行政もプロジェクト保津川の活動を見ていてくれて、こちらがやっているから、提言もしっかり聞いてくれる。レジ袋禁止条例がうまくできたので、筏材を使ったマイスプーンやコミュニティコンポストにも取り組んでみたい。
資源の循環と人のつながりをキーワードに活動していきたい。
●取材を通じて
原田さんの話を聞いていて、地元密着とネットワークということを改めて考えさせられた。地元密着という点では、自治会との協力関係が大きい。なかなか自治会との協力関係をつくりあげるのは難しいが、そこが活動の起点としてあったことで、以後のさまざまな展開につながっていると思われる。
行政や他の団体との連携もうまくいっている。価値観の違いや組織の文化を乗り越えて、共通目標に向けて取り組もうとする姿勢は、「協働」の可能性を示してくれている。
すぐに解決できないから地道に取り組むというプロジェクト保津川のこれからの活動に注目したい。