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生物多様性の保全活動を通じて、自然の豊かさを伝える 〜20年にわたる山門水源の森を次の世代に引き継ぐ会の活動の魅力を探る~

 山門水源の森を次の世代に引き継ぐ会(以下「引き継ぐ会」という。)への夏原グラントの助成は、2014年度から2017年度までの5年間で、助成内容は、山門水源の森での天然更新試験地における植生調査や生物の生息調査と同時に、獣害防止を行う箇所と行わない箇所との比較調査等である。
 今回は、引き継ぐ会の理事の藤本秀弘さんにインタビューした。
  (文責:阿部圭宏)
  
●活動のきっかけ
  
山門水源の森を次世代に引き継ぐ会の活動のようす画像 冬の山門水源の森の藤本さん 
 
 藤本さんは地学の教師をされていて、専門は地質学である。小林圭介さん(滋賀県立大学名誉教授)が主宰されている滋賀自然環境研究会に誘われてメンバーになっていたことがきっかけで、植物や生き物にも関心を持ち、同研究会のメンバー有志と山門湿原研究グループを組織した。琵琶湖研究所長の吉良竜夫氏の勧めもあり、助成金をもらって5年間にわたって各種生物調査を行い、1992年「山門湿原の自然」を刊行した。
 当時、山門水源の森は、西浅井町(現長浜市)の三ヶ村の上ノ庄生産森林組合が所有していて、上ノ庄水源の森と呼ばれていた。もともと地元の方の薪炭林として利用されていたが、1960年代後半からは利用されることもなく放置されていた。バブル期にはゴルフ場建設計画が持ち上がったが、バブル崩壊とともに会社が撤退し、1996年に滋賀県が買収した。面積は63.5haと広大である。
 
山門水源の森を次世代に引き継ぐ会の活動のようす画像 山門水源の森空撮全景 
 
 県から一般公開するための整備について、研究グループに協力要請があった。山門水源の森と名づけられ、整備計画も作られたが、計画見直しの意見を言ったりして、それに基づき整備が行われ、1999年に整備が終わった。その延長線上で「引き継ぐ会」を立ち上げた。

●地元主体、有給スタッフとボランティアの協働関係
 
 藤本さんは山門水源の森まで大津から通っている。引き継ぐ会の立ち上げ時は、まだ現職の教員だったので、土日を利用して活動していた。私立学校だったので定年は65歳だったが、60歳で早期退職して活動に専念するようになった。
 引き継ぐ会正式立ち上げは2001年だが、森の一般公開の整備が完了した1999年から活動を始めていた。滋賀自然活動指導員連絡会にも声をかけてメンバーを増やすことができた。会の活動は地元主体に心がけ、代表には地元の人になってもらった。
 関係者が共通の認識を持って保全と活用を図ることが重要である考え、滋賀県、西浅井町(現長浜市)、上ノ庄生産森林組合と引き継ぐ会の4者で構成する山門水源の森連絡協議会をつくることになり、定期的な会議を行うことで課題共有を図ってきている。
  
●多岐にわたる活動
 
 引き継ぐ会の活動は多岐にわたる。初期の活動は、観察コースの維持管理、沢の土砂対策、近くの牧場からの牛の侵入を防ぐための有刺鉄線の設置などを行ってきた。中でも、一帯の草刈りは大変だったが、そこからササユリが生えてくるという成果もあった。活動日は土日が中心で、5人から10人くらいがいつも参加してくれていた。
  
山門水源の森を次世代に引き継ぐ会の活動のようす画像 ササユリの花   
山門水源の森を次世代に引き継ぐ会の活動のようす画像 地元西浅井中学生のササユリ播種作業 
   
山門水源の森を次世代に引き継ぐ会の活動のようす画像 防獣ネット・波板設置 
   
 公開を前提として整備されたため、自然観察会、エコガイドなども行い、メンバーがインタプリター(自然と人との仲介となって自然解説を行う人)となって活動している。
 活動は試行錯誤の連続で、専門家にも来てもらってアドバイスを受けたりしてきたが、とにかく、炭焼き山だったので撹乱しておくこと(広葉樹は適宜伐採することで萌芽更新される)が重要であるとの認識はあった。
 貴重な動植物の観察記録、植生調査、シカによる食害の進行状況観察とその対策、ササユリの再生など活動はいろいろ工夫されている。ミツガシワは2010年に全滅したと思われていたが、今は9割程度復活している。
  
山門水源の森を次世代に引き継ぐ会の活動のようす画像 一面のミツガシワの花 
 
 夏原グラント助成では、天然更新試験地を設定して皆伐を行った後、シカの食害と更新の関係を観るため、防獣ネットの有無での差異を、植生調査やセンサーカメラを設置しての調査を続けている。貴重な生物の保全活動にも熱心に取り組み、研究者からも高い評価を得ている。
 
山門水源の森を次世代に引き継ぐ会の活動のようす画像 天然更新試験地 
 
山門水源の森を次世代に引き継ぐ会の活動のようす画像 下層植生保護の防獣ネット 
  
 活動状況はホームページで公開するほか、マップやガイドブックを作成して、来訪者の利便性を供している。調査報告書、書籍、D V Dなど、記録をていねいに残している。
 20年以上の活動を続けていても、保全活動は当然終わるわけではなく、湿原の水質調査をはじめとする各種調査やシカの獣害状況の巡視、散策コースの1000段にもなる階段の修繕工事も続いている。企業の社員研修、なじみの団体への協力もお願いし400段の修繕が終わった。
 
●拠点整備と活動メンバー
 
 作業するメンバーだけでなく、来訪する人にもトイレが必要なので、滋賀県がバイオトイレを2002年に設置した。2004年には、西浅井町が整備を進めていた学習拠点施設「やまかど・森の楽舎(まなびや)」が完成したことで、引き継ぐ会の事務所機能も果たすことができた。
 入り口には、協力金の呼びかけがされており、入山者に保全活動への協力を呼びかけている。
 
山門水源の森を次世代に引き継ぐ会の活動のようす画像 やまかど・森の楽舎と協力金呼びかけ 
 
 藤本さんをはじめ、多くのメンバーがボランティアとして活動しており、滋賀県からの山門水源の森連絡協議会への委託事業に加え、引き継ぐ会の自発的な調査や保全活動が実施されている。2009年には県からの緊急雇用創出事業を西浅井町が作った有限会社西浅井総合サービスが委託を受ける形で、有給スタッフも整備やガイドなどの仕事を担ってきた。現在は形を変えながら、スタッフとボランティアとの協働活動となっている。
 
山門水源の森を次世代に引き継ぐ会の活動のようす画像 四季の森の紅葉観察会 
  
●組織運営
 
 当初の会員は、滋賀自然観察指導員連絡会に声をかけて、多くの会員が集まってくれ、自然観察のガイド等は積極的に動いてくれたが、保全活動にはそれほど関心はなかった。引き継ぐ会の活動が継続的に実施され、来訪者が増加するにつれ、保全活動に積極的な会員が徐々に増え現在は約130名となっている。
定例保全活動は、毎月第1と第3土曜日に実施しており、毎回20〜30人が集まってくれるが、この2回の作業だけでは保全活動ははかどらず、それ以外の日にも都合のつく会員が作業を行っている。
 滋賀県との協働事業や長浜市のバックアップもあり、生物多様性の保全という引き継ぐ会の本来の目的は一定の成果を得ている。
 組織も引き継ぐ会発足当時の会員から、次の世代へと引き継げていて、より活発な活動が展開できるようになった。
  
●これまでの活動を振り返り、今後へつなげる
  
 これまでいろいろ考えながら活動をしてきたが、ササユリの増殖、ミツガシワの再生など、うまくいったものと、よかれと思ってやったことが間違っていたのではないかと思うところもある。シカは有害駆除がうまくいっていて、数は減っている。森、湿原の保全というのは、目先のことではなく、最低でも10年単位に考える必要がある。引き継ぐ会では、2050年の森をどうするかを今考えている。
 
山門水源の森を次世代に引き継ぐ会の活動のようす画像 琵博のプランクトン調査ガイド 
 
●取材を通じて
 
 藤本さんに久しぶりに会うと、79歳(取材時)の年齢を感じさせない、その元気さにまず脱帽した。自然が人に英気を与えているのかもしれない。
何が藤本さんを山門水源の森に引きつけたのか。よくNPOの世界では、活動のきっかけが「気づいてしまった、放っとかれへん」ということが多いと言われるが、藤本さんの場合もまさにそうだったのではないかと思う。その情熱が、周りの人を動かし、行政だけでなく、地元企業からの寄付や協力を得られているのだろう。
 保全活動は、地道な作業を継続してやっていかないといけない。そのため、引き継ぐ会も持続的な団体となるように、日々努力されている。引き継ぐ会のこれからの活動にも注目していきたい。



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