野生の傷病鳥獣を保護し、野生復帰させる貴重な取り組み 〜鳥のようにしなやかに幅広く活動する放鳥’sの魅力
放鳥’sへの夏原グラントの助成は、2017年度から2021年度までの5年間で、助成内容は、さまざまな原因で傷ついた野生動物(以下「傷病鳥獣」)を、確実に野生復帰させる活動と放野後の追跡調査・生存確認等である。
今回は、放鳥’s代表の境貴昭さんにインタビューした。(文責 阿部圭宏)
(2枚とも代表の境さん)
⚫️活動のきっかけ
境さんは、小さい頃から動物に触れるのが好きなこともあり、傷病鳥獣の野生復帰をする活動に興味を持ち、堺市にあるNPO法人野鳥の病院が主催する野生動物リハビリテーター養成講座を受講した。放鳥’sは、そこで知り合ったリハビリテーターが中心となって2012年に設立した。
(リハビリテーター養成講座)
メンバーには、リハビリテーター以外に、獣医師、動物看護師、鳥類標識調査員、学芸員、写真家等などが入っている。
団体の名前からは、鳥だけを対象としているように見えるが、主として鳥を対象としているものの鳥以外の動物にも関わっている。
境さん自身はそれまで個人でも活動していたが、野生に放った(放野)後の追跡ができないので、組織化して体系的な活動を行うこととした。滋賀を中心に大阪、奈良などの関西で活動している。
⚫️活動内容
傷病鳥獣の救護活動は、単に救護すればよいというものではなく、「治療→リハビリ→放野→追跡→分析」という流れで行う必要があるという。
放鳥’sでは、救護要請があった場合に現地へ赴き、どのように対応すればよいかを判断して、治療が必要な場合は適切な治療を行った後、個体のリハビリテーションを行い、放野している。
全国的には、野生動物救護施設で救護される個体の約3割が放野され野生復帰しているが、生存調査はほとんど行われていない。生存できているのかが分からないと、治療やリハビリ、放野時期が正しかったのかなどの判断ができないので、放鳥’sはは可能な限り、放野後の追跡調査を行い生存を確認し、治療やリハビリの効果を検証している。
現在は、滋賀県からの救護事業を委託を受けているが、鳥インフルエンザの影響があって、受け入れ制限がかかり、救護個体数も減っている。簡易検査をして救護活動を行っている。滋賀県からの救護委託の仕組みはこうだ。
滋賀県のホームページを見ると、滋賀県には傷病鳥獣救護事業があって、対象はすべての野生鳥獣を同じように救護するのではなく、特に個体レベルでの保全が必要な希少種等を野生に戻すことを目的としている。
https://www.pref.shiga.lg.jp/ippan/kankyoshizen/shizen/14057.html
救護事業は、滋賀県に連絡が入り、捕獲、診察、治療という流れになる。救護事業のうち、診察、治療は県が滋賀県獣医師会に委託していて、救護が必要な個体について、滋賀県獣医師会に登録している「野生鳥獣救護ドクター」が診察、治療を行っている。救護ドクターへ直接持ち込まれる場合もあるそうだ。傷病鳥獣の治療は社会貢献的意味合いが大きく収益につながらないため、救護ドクターの登録は減っている。
放鳥’sも日頃の活動を県から評価してもらい、2019年度からは県の委託を受け、救護要請があった場合、捕獲を行い、診察、治療、リハビリ、放野と一連の流れで救護活動を行っている。
⚫️機動力と専門性
放鳥’sの真価が発揮されるのは、その機動性と専門性である。救護要請があった場合に現場で駆けつけ、対応方法を検討する。治療の必要な場合は、時間との戦いなので、早急に獣医師に連絡をして診察してもらう。現場で簡単な処理で済む場合は、処置後に放鳥’s事務所に連れて帰り、様子を確認しながらリハビリを行う。こうした判断は、放鳥’sの経験がなせる技とも言える。
リハビリ内容は個体によってさまざまである。他動的に伸展運動をするなど、自立して動けるようなことも行う。鳥の場合、ケージ内でのフライト、ラインフライト(足にヒモをつけて飛ばす)、フリーフライトと段階を経て、リハビリ期間は個体によって違うそうで、長い場合だと1年以上かかる場合もあるそうだ。
(リハビリの様子)
リハビリの経過観察を行い、野生復帰可能と判断された個体は、原則、救護場所にて放野する。生存確認や再保護された際の目印として、各種カラーマーカーを利用している。主に刻印をしたカラーリングを使用し、ウイングマーカーも利用することもある。各個体のカラーマーカーの状況は、▼ホームーページに掲載している。種類によっては発信機による追跡調査を実施している。
(放野)
(追跡)
2023年10月にはアホウドリを大阪で救護し、他の機関の協力を得ながら伊豆諸島沖で放野したが、千葉沖で再捕獲されたものの、残念ながら亡くなったとのことである。詳しくは、放鳥’sの▼フェイスブックページに詳しく記載されている。
⚫️オンラインを活用した講習、会議
コロナによって、不便なことも増えたが、オンライン技術を活かす取り組みが増えたことで、会の活動が活性化した。放鳥’sのメンバーは、滋賀、大阪などの関西エリアだけでなく、広域にいるため、これまではなかなか一緒に集まって議論をすることが難しかった。しかし、オンラインでの会議も可能となったので、これを活かしてメンバー間の意思疎通がうまくいくようになった。
加えて、将来的なマニュアル作成のため、経験と多角的な意見交換の場として、全国の傷病鳥獣救護をされている方たちと勉強会を実施している。今抱えている症例や過去の成功例、失敗例などの情報共有にも尽力している。
こうしたオンライン勉強会の開催には、全国的な質的向上などをしていきたいという境さんの強い思いがある。
⚫️放鳥’sのこれから
放鳥’sの活動を活気づけたのが夏原グラントの助成だった。非常に使いやすく、会の活動が行政をはじめ、いろんな方に知ってもらうこともできた。
大学や研究機関ともつながって、多様な情報を得られているので、これからの活動にも大いに役立てると考えている。
現在は県の委託事業や寄付など一定の収入はあるが、もっと自主財源を生み出せるようなことがしたい。
⚫️取材を終えて
境さんの熱い思いを聞かせてもらった。放鳥’sのメンバーは仕事を持ちながら活動を続けている。その情熱はすごいし、ホームページやフェイスブックを見ると、保護記録や記事がていねいに載せられていて、本当に貴重な記録と言える。現在も行政、獣医師会、大学、研究所など多様な連携を図り、ネットワークの広がりを感じる。この活動を地道に広げていくには、滋賀県獣医師会ホームページで紹介されている「ワイルドライフセンター」のようなものが立ち上がれば、滋賀県内での傷病鳥獣への理解も広がるだろう。