伊吹山自然再生・保全事業 /伊吹山ネイチャーネットワーク
事業の概要
伊吹山をフィールドに、自然保全に関わる調査活動と実践活動を行います。外来植物の侵入調査、絶滅危惧種の分布と個体調査、猛禽類観察者の動向調査などの調査と同時に、広く一般の人に呼びかけ自然観察会や保全活動を行います。
2014年6月27日、伊吹山ネイチャーネットワークの外来植物侵入追跡調査に伺いました。
伊吹山のふもとに集まったのは滋賀県以外に兵庫県、徳島県、岐阜県、愛知県などから5名のメンバーです。この日の調査は、以前から定期的に観測している地点のその後どうなっているかを調べます。伊吹山ドライブウェイ沿道に設けられた待避所周辺の外来種の種類と数、丈などを記録していくのです。その数、32か所。二日間に分けての調査です。
この調査の意味を事務局の筒井さんが説明してくださいました。
「今、伊吹山の自然は、いろいろな要因が重なり、年ごとに急激な環境の劣化が進んでいると思われます。
このような中、2008年から始められ今回で3回目となる、時系列で捉えた調査活動(モニタリング)は、環境劣化の要因や今後の保全や再生の計画や方針を立てる上で、とても重要なはじめの仕事と言えます。
継続的なモニタリングによって検証し、このデータに基づき仮説(計画)を立て、実施(試験的)し、またモニタリングによって検証するというPDCAサイクルでよりよい保全再生のあり方を模索しています。
今日と明日行うのは、ドライブウエイの車が停車できるポイント(待避所)での外来植物の分布調査です。
なぜここをポイントに選ぶかというと、外来種の種を運んでくるのは自動車や人間の靴が主因と考えられますから、駐車スペースに車を停めて人が歩く場所、そういう意味で待避所をポイントとして選んでいます。
また、道路工事の時に他から土砂等を持ち込むことも考えられ、高山に海辺や川辺の植物が見つかることなどもあります。
昨年は、33か所を調査して外来種が49種見つかり、そのうち生態系に悪影響を及ぼしうる要注意外来種(環境省外来生物法)は22種でした」
お話のように前回と同じ調査地点を回って、植物の種類がどう変化したかの調査を開始します。国道365号の信号からドライブウェイに入る駐車場脇の草むらが第1ポイントです。
ポイントごとの草むらの調査面積内の被度・群度・草丈などを調査票に記入していきます。
地形によってコドラート方式やライントランセクト等方式を使い分けて調査をします。
第3ポイントではコドラート法という区画調査を行いました。地面を正方形に区切ってその中の植物を調べます。ここでは北アメリカ原産のブタクサやススキ(在来種)が多くみられました。
私も一緒にポイントをめぐるので、気になる外来種植物の名前をメモしていくことにします。(見つかった外来種全てではありません)
第5ポイントには北アメリカ原産のヨウシュヤマゴボウが見られました。人が立ち止まらない場所には外来種は少ないのだそうです。
第6ポイントでは、調査の後に昼食。雨が降らないうちに、と気持ちがはやります。
第7ポイントではマイマイガの幼虫が大量発生しているのが見られました。この幼虫にかかると大きな木も丸裸にされてしまいます。なぜかわかりませんが道路に大量に死んでいるところも見られました。ここで見つかった外来種は南アメリカ原産のオオアレチノギクが特に多く、その他オッタチカタバミ、タチイヌノフグリなどが見られました。
これは植物の草丈を計っているところです。これも調査シートに記入。
第8ポイントでは、南アフリカ原産のシナダレスズメカヤが見られました。この草は道路の法面緑化のために吹き付けられて日本中に広がったのだそうです。そういえば、私も見たことがあるような……。平地だけでなく、道路工事とともにこんな高山にも運ばれてきて繁殖しているんですね。
ここで谷の向こうに鹿の姿が!鳥の鳴き声が聞こえているな、と思っていたら、それは鹿の鳴き声だということがわかりました。昼間に姿を見かけるほどいるのですから、植物の鹿による食害も多そうですね。
第15ポイントは県境です。
ここから突然、ヨーロッパ原産のハルサキヤマガラシが大量に見られるようになりました。黄色い菜の花そっくりの花は終わり、種をたくさんつけています。また、すでに山頂においてもいくつかの個体の侵入が確認されています。在来種(同属のヤマガラシ)と交雑したら大問題だそうです。
また、ここから上には北アメリカ原産のヒメジョオンも見られました。これも要注意外来生物に指定されているし、日本の侵略的外来種ワースト100にもランクインしているのです。
第23ポイントでは、日本の侵略的外来種ワースト100、要注意外来生物に指定されているオニウシノケグサ、セイヨウタンポポ、ハルジオンなどが見られました。
第23ポイントで予定の時間となったので、9ポイントを残して調査は終了。ドライブウエイ終点の駐車場まで行き休憩してから引き返しました。駐車場手前の道路沿いには、イヌワシ撮影に詰めかけるカメラマンが入らないよう、伊吹山ネイチャーネットワークの皆さんの手で防護網を張ってあります。その網の向こうにはマーガレットそっくりのフランスギクが咲き乱れ、まるで花壇のような光景が広がっていました。
筒井さんがその花を見ながら説明してくださいました。
「フランスギクは、山頂駐車場付近で急激に広まりました。これを駆除するのに、最初は安易な考えで根こそぎ抜かれたのですが、同時に本来あるべき保湿性あるコケ類までいっしょに抜かれたことで周辺の植生環境に大きなダメージを与える結果となりました。特に生育場所である希少種は一部絶滅に瀕することまで起こったのです。以来、根は抜かないで花を摘み、種を作らせない作戦を試しました。ところが、種でなく根でも増殖するメカニズムが分かり、花を摘む作戦だけでは事足りないことがわかりました。
このことから昨秋10月、希少種が開花することで生育場所がピンポイントで分かる時期に、再度、根こそぎ抜く試験区を設け実験を行いました。
ただし、その作業法は、抜いた根についた泥をバケツの水で洗浄し、洗い落とした泥水を再度、その場に戻すという、大変手間のかかる作業です。
この6月、試験区の植生調査を行った結果、駆除効果は今までの最大で、なお周辺の植生に大きな変化はないことが確認されました。
このことで、本年10月下旬に、実験と同じ方法で、実質的なフランスギク駆除作業が施される予定です。フランスギクの根は山から持ち帰って処分するとのことです」
安易に外来種を自然の世界に持ち込むと、その影響は計り知れないのですね。
特にフランスギクとハルサキヤマガラシが咲き乱れる光景は、一見美しく感じられます。しかし、これらの外来種は数で伊吹山の在来種を圧倒していき、実は全く自然ではない光景なのです。
環境保全は、時に気が遠くなるような手間と時間がかかることがあります。伊吹山ネイチャーネットワークの皆さんは、外来種の調査も定期的に取り組み、試験と調査とを繰り返しながら、よりよい環境保全活動を目指しておられることが、今回よくわかりました。
外来植物駆除ボランティアや自然ガイドツアーなどで参加者を募集されることもありますので、興味のある方は以下のサイトにアクセスしてみてください。情報満載です。
伊吹山ネイチャーネットワーク
http://www.ds-j.com/nature/ibuki/