中央分水嶺水源林再生事業 /特定非営利活動法人 高島トレイルクラブ
事業の概要
滋賀県高島市の中央分水嶺高島トレイルはトレッキングコースとしてもすばらしいものです。しかしナラ枯れで多くのミズナラやコナラが枯死しています。母なる琵琶湖を取り巻く山々の水源林を、生物多様性が保たれ、豊でバランスのとれた広葉樹の森となるよう、青少年とともに再生に取り組みます。 1年目は現状把握、2年目は現状把握とともに取組計画、3年目以降は実践、という3カ年計画です。 1年目は中央分水嶺高島トレイル周辺におけるナラ枯れの調査を、トレッキングに合わせて実態調査します。
2017年2月18日、高島トレイルクラブのスノーシューハイキングに同行しました。
高島市内の朽木スキー場から、蛇谷ヶ峰へ、参加者は高島市内の小中学生が中心です。
朝8時半に、高島市の安曇川公民館に集合し、スパッツを身につけてからバスに乗り込みます。
お母さんたちに見送られ、出発。
この日の参加小学生は25名、中学生は4名。
スキー場に到着すると、当然ながら一面の雪景色です。
さっそくレンタルのスノーシューを装着します。
スノーシューは初めてという子どもも結構いますが、大人のボランティアも手伝い、ストックを持ち準備ができました。
にぎわうゲレンデを横目に、スノーシューでの雪の坂道の歩き方を教えてもらいました。
つま先についた、金属の歯で雪をけるようにすると滑らず、どんどん登れるのです。
ゲレンデを外れたところから歩き始めました。
少し登ったところで、開会のあいさつです。班に分かれて中校生リーダーと大人ボランティアの方が何人か入るので、その顔合わせをしました。
高島トレイルクラブの村田さんは、日本山岳ガイド協会の認定ガイドでもあるので頼もしいです。
高島トレイルクラブ、グリーンウォーカークラブネイチャーガイド研究所の青木さんも一緒に歩き、途中で目に付いた山の自然についてトランシーバーを使って説明します。
道が狭いのでどうしても長い列になります。途中途中にトランシーバーを持った人がいて、その説明を回りに聞かせてくれる、というシステムです。携帯電話が使えない山の中なので、この連絡体制は欠かせません。
これはスギの木のつぼみです。もっと南では既に咲いていて花粉をまき散らしているとのこと。でもここでは、まだ咲いていませんでした。
木がまばらに生えている広場のようになった場所がありました。青木さんの説明では、これは昔の木の伐採場のあとだということです。昭和半ばまでは燃料として森に木を切りに人が入っていたのですが、化石燃料が中心になってから、人が山に入らなくなってどんどん木が生えてきたそうです。だいたい50年くらい経過しているのだとか。人が入らなくなった里山の森は荒れていきました。
そんなお話を聞き終わったら、また出発します。結構な傾斜の雪道も、スノーシューで一歩一歩滑らずに登っていけます。
ずいぶん登ったところで、休憩タイム。山登りをしていると汗だくになるので「脱水症状をおこさないためにも水を飲むのも大切だよ!」と村田さんがみんなに呼び掛けていました。
森の木がないところからは、琵琶湖も見渡せました。「わー!こんなに登ってきたんだ」と感激している子もいました。
頂上目指して歩き始めると、動物の足跡が!
青木さん「野ウサギの足跡です。これを2時間くらい追いかけていくと、ウサギに出会えるかもしれないですよ」。
登山の道沿いに子ウサギが必死に餌を探して歩いたらしい足跡が続いていました。
あと少しで頂上という少し平たい場所に着いたところで、昼食タイム。
雪の上にゴミ袋を敷いて、各自持参したお昼ご飯を食べました。
食事後、青木さんに今の日本の森の中の問題についてお話を聞きました。
シカが増えて森の下草、木、木の皮を食べてしまいます。冬の間、雪に隠れて見えませんが、蛇谷ヶ峰の森でも下草や低木が食べられてなくなってしまっているそうです。
皮を食べられた木は枯れてしまうのです。シカの食害は世界的に問題となっているそうで驚きました。日本の山だけではないのですね。
森ではナラの大木が枯れ、倒れた木や立ち枯れの幹にはキノコが生えています。食用キノコだけならよいのですが、猛毒のカエンタケも発生しているようです。
また、外来種であるマツノザイセンチュウが、マツノマダラカミキリの体内に侵入し、マツにも入り込んでしまった結果、仮道管がたくさんのセンチュウで詰まり水が通らなくなってマツが立ち枯れています。これが松枯れ問題の原因です。
松枯れも広がっています。
青木さんは「みんなご飯を食べますが、その材料の中で自然でないものは一つもありませんよね。自然というものが当たり前のようにあると思っているかもしれませんが、そうではありません。いろいろな問題で自然が変わってしまい損なわれてしまうと、私たちは生きていけなくなります」と身近なことから子どもたちに自然の大切さをお話してくれました。
お話が終わったら、頂上へのアタック開始!
頂上はすぐそこに見えています。
しばらくしたら無事に登頂できました。山頂の道しるべも、雪に埋まっています。
他の登山者も何人かいました。
360度見渡せる大パノラマ!琵琶湖の北部、うっすらと竹生島が見えます。
「沖の白石は高島市内です」と村田さん。「あそこがスーパーのあるところ、あそこが中学」など、景色の説明をしてくれます。
琵琶湖の南のほう、近江八幡の沖島まで見えています。
村田さんの説明では、琵琶湖とは反対側の経ヶ岳、三国岳、百里ヶ岳の連なりが中央分水嶺であるということです。それらの山からこちらに降った雨や雪は琵琶湖から太平洋に注ぎ、山から向こうに降ったら日本海に注ぐというわけですね。本当にスケールの大きな景色の中にいることが実感できました。
頂上の裏手には霧氷が見られました。青木さんの説明によると、雪が付着することが多いのですが、このように空気に含まれている水分が風で吹き付けられて葉っぱで凍っているのはなかなか見られないのだとか。
子どもたちもさわって確認していました。
出発前に頂上で記念撮影。琵琶湖をバックにした貴重な写真ですね。
下山開始。スキー場ではなく、こちら側、グリーンパーク想い出の森に降りて行きます。
急な下り坂はスノーシューも滑りやすく、転ぶ人続出。
子どもたちがキャーキャー言いながらお尻で滑って降りる場面もありました。
ひたすら歩いて降りて行くと、大人の人に手を貸してもらい、小川を横切るところもありました。普段は通れない道も、雪があるこの時期だけ通れるそうです。
子どもたちは元気いっぱい雪道を下っていきました。
下山し、グリーンパーク想い出の森の屋根付き広場に集合。そこで待っていた保護者の皆さんから熱々の焼き餅入りぜんざいを振る舞っていただきました。
朝から体を動かしてきたから、甘いものが最高に美味しいですよね。
最後に村田さんからのあいさつで解散です。体調の悪い子、足首をひねった子もいましたが、大人がずっと付き添いながら歩き、他に大きなケガをする子どももなく無事に下山できました。子どもたち、よくがんばりました。本当によかったです。ただ、私が足首を痛めてスノーシューを外してしたため雪道で難儀し、とても遅れてしまい申し訳なかったです。
返却するため集めたスパッツとスノーシューの山。
バス2台に分乗し、それぞれ搭乗した地点に戻ります。朽木はまだ雪の中でしたが、春の気配も感じることができました。
このスノーシューハイキングでは、単に雪山に登るだけでなく途中の自然を観察する時間もきちんと取ってありました。目にする自然について、その時を逃さず説明してもらうと、より深く知ることができます。
また、標高はそれほど高くはないものの冬の雪山なので大勢の大人によるサポートが欠かせません。経験豊富な村田さんと高島トレイルクラブの皆さん、そしてボランティアの皆さんが協力して担当を決め、下見を重ね、準備をされていることがよくわかりました。
このスノーシューハイキングは、高島トレイルクラブの技術と地元の皆さんとの信頼関係あってこその事業だと感じました。高島市の豊かな自然を代表する、高島トレイル(高島市マキノ町の愛発越から今津町の山並を経て、朽木の三国岳へ至る80kmに及ぶ道尾根道を歩くコースのこと)は高島の自然と文化にふれる貴重なルートです。高島トレイルクラブの皆さんには、これからもこのルートの保全と活用にご尽力をお願いしたいと思いました。