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森林・林業の多角的な体験・学習を通じた人材育成 /NPO法人 京都・森と住まい百年の会

事業の概要

京都で森林・林業の勉強をしている学生、関心のある地域住民を対象としてイベントや学ぶ場を提供することを通じて、森林や林業への理解を深めてもらいます。また、さまざまな形で関連分野に参画する人材として将来的に活躍するきかっけを提供します。

京都・森と住まい百年の会 活動写真

2016年1月10日にキャンパスプラザ京都で開催されたシンポジウム、第5回「ライフ・アンド・フォレスト」に参加してきました。NPO法人 京都・森と住まい百年の会主催です。

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今回のテーマは「夫婦林業~古くて新しい生業のカタチ~」ということで、メインは林業を生業としているご夫婦3組のそれぞれのお話でした。

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ご挨拶はもうひとつの主催団体である、NPO法人才の木の理事長・福島和彦さんから。

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講演(1)は、京都府福知山市・伊東木材株式会社の伊東昌紀さん(34才)・禾緒里さん夫妻。赤ちゃんをあやしながらのお話です。昌紀さんの兄弟は男ばかり4人。そのうち3人が後を継ぎ、建築、土木、山林管理をそれぞれ行っています。昌紀さんは山林管理をしつつ綾部市にある原木市場のセリを進行させる「セリ子」の仕事もしています。

山林管理から建築まで一貫経営できることを活かし、家の施主を招いて木材の伐採作業に参加してもらい、実際に家のここに使われていることがわかるようにしているそうです。こうすると家に物語が生まれ、より「愛着が湧く」と好評だそうです。

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禾緒里さんはサラリーマン家庭に育ったため、林業も自営業も初めての経験でしたが、4人兄弟に嫁いできたほかの3人の女性も同じだったため全員が「お義母さんに付いて行きます」という感じだそうです。禾緒里さんは、原木市場10周年イベントをお義父さんから「何かやってほしい」と頼まれ「モクモクフェスタ」を開催し、大成功を収めます。あまりに好評だったため、単発のはずが毎年恒例となり参加者も増加の一途をたどり昨年は2000人だったとか。

モクモクフェスタのブースもいくつか紹介されましたが、製材所の端材を積んでおいて自由に工作できるコーナー、国産材使用の木の積み木コーナー、林業用大型重機試乗コーナーなど、ゆっくり親子で木と遊べる工夫がされていること、そして女性が楽しめるおしゃれな食の提供など、女性ならではの視点の企画が満載でした。

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講演(2)は、三重県熊野市の野地木材工業株式会社・野地伸卓さんと麻貴さん夫妻。こちらも製材から加工、製品まで全製品一貫生産することがウリの会社とのこと。
杉のフローリング材は業界の常識にチャレンジする大きさで技術力をアピールしています。

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こちらは二人のなれそめから現在の状態に至るまでも含めた楽しいお話でした。出会いは東京のライブハウス、しかも麻貴さんがお目当てじゃなかったバンドのボーカルだった伸卓さんを逆ナンパ。遠距離恋愛1年を経て熊野で同棲を開始し1年後に結婚を果たしたそうです。

東京出身の麻貴さん、最初こそ戸惑ったものの野地木材工業に就職するや、専門用語を勉強し営業職として独りで大都市へ行くほどの急成長を遂げます。その原動力は「熊野の山の木材が伐採されて家になることの感動」でした。「この感動を家の施主にも体験してもらいたい」との気持ちから企画したのが「のじもくツアー」です。実際に家に使う木材加工の現場に立ち会ってもらい、自分が加工した木がどこに使われたかわかるように印をつける。世界遺産の神社で大黒柱に「入魂祭」を行う。漁船で熊野灘をクルーズし神武天皇が上陸したことをなぞる。野地木材工業が手がけた宿泊施設・熊野クラブに泊まって一緒に酒を酌み交わす……。画像と説明を聞いていると、自分が家を建てられるかどうか関係なく熊野に行きたくなってきました。最初に出てきた伸卓さんの言葉「ポップな製材所を目指しています」は、麻貴さんのお話も含め最後まで聞くとなるほどと思わされました。

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講演(3)は奈良県川上村・中平林業の中平武さんと真菜香さんご夫妻。まず真菜香さんが川上村の林業の歴史について説明し、それから武さんが中平林業の仕事について説明しました。武さんは代々「山いき」という山の管理をする職人の家に生まれました。江戸時代は山守りという、山の持ち主(山主)から委託されて山の森林を管理する親方のもとで働くのが普通で、武さんのように独立した会社を川上村内で立ち上げたのは史上初だそう。独立にあたって、真菜香さんは武さんが「高い技術力はあるし、人柄もいいので」全く心配しなかったということです。

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会社のメンバーは20代から30代の若手男性3名に、父、叔父、たまに重機担当が加わります。動画を交えて山仕事を紹介してくれました。やはり山仕事を実際に見てもらう「桧200年生伐採見学ツアー」などを開催しているそうです。

3組ともお互い信頼関係があり、林業という家業を継いだ夫をよそから嫁いできた妻が支えるという形。妻は都会から来たからこそ地元や林業の良いところがわかり、それをお客さんにダイレクトに伝える努力をしています。従来の林業にはない新しい仕事が生まれ、それが魅力となって顧客を呼び込み、現場に活力を生んでいるのです。

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パネルディスカッションでは、そんな夫婦の協力体制林業について会場からの質問を集めて聞くというものでした。「都会から嫁いできて、どう感じたか?」「家業の林業をたいへんだと思ったことは?」「もくもくフェスタのPRはどうやった?」「組合から独立するとき、反発はなかった?」「ぶっちゃけ夫婦で働くようになってから売上はどう?」など、それぞれ聞きたいことばかりでした。

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最後に「パートナーへの感謝の言葉を」と言われて「財布のヒモがワイヤーと化しているので、ちょっとはゆるめてほしい」「子どもの前ではけんかをしたくないが、仕事でも家庭でも一緒なので難しい」「外では弱さを見せられないので家ではグダグダするのを許してほしい」「チェンソーの資格を取ってほしい」など、皆さん本音が出てきたので会場も和みました。

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夫婦林業の後は、話題提供として「COP21パリ協定 ~世界の課題、日本の課題~」でした。NPO法人気候ネットワーク代表の浅岡美恵さんから、昨年末に採択されたばかりのCOP21パリ協定に至るまでのふり返り、そして日本がまだ二酸化炭素の排出量とGDPの切り離しが進まずリスクの高いままの日本の都市の現状、今後どうすべきなのか、などのお話がありました。

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最後にNPO法人 京都・森と住まい百年の会の代表理事・田村宏明さんからのあいさつで閉会しました。

今回はテーマが「夫婦林業」だけにカップル・親子連れでの参加もあり、終始和やかなムードで林業の現状を伝えるシンポジウムでした。

参加者数は約120名で、アンケートでは
「もくもくフェスタすごくいいなあと思いました。いろんな団体をまき込んで、木の良さを伝えていくのが参考になりました」
「奥さんの行動力、すばらしいですね。全く違う世界から入ってきたからこその企画、アイデアもいいなあと思いました」
「職人である旦那様の技術、人柄に対する信頼を強く感じました。ぜひ奥様の視点で発信していただけたらと思います」
「夫婦おたがいが相手のことを思いやって助けていくことが大事だなーとひしひしと感じました」
などの意見があったそうです。

家業である林業を、若い感覚でよりセンスアップし、より高度な付加価値を求めて努力している実例を知ると、頼もしくてこちらまで元気が出ますね。同時に日本の木材をふんだんに使った建築の魅力と木材の故郷を訪ねたくなりました。NPO法人京都・森と住まい百年の会は「分断された京都の森林とまちの暮らしを結んで、互いの関係がよりよいものになること」を目的に活動しています。そのためには、こんなシンポジウム形式の情報発信も大切だと感じました。

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