市民が楽しめる 豊かで元気な 森育て をすすめよう! /一般社団法人 宇治きこりの会
事業の概要
宇治市炭山地域の山林「谷山サブロー」を多様性のある豊かで元気な森に育て、市民が学び、楽しめる、また災害支援市民ネットワークしがに強い山林にしていきます。そのために、森林整備活動、植樹、散策路や広場の整備、自然を楽しむイベントやクラフト教室、林業体験会などを実施します。
訪問 宇治きこりの会
宇治きこりの会が取り組む「市民が楽しめる豊かで元気な森育てをすすめよう!」で、2022年10月16日、「『地域の山林学習』と『皮むき間伐』」が開催されました。このイベントに参加して、その様子を取材しました。
宇治市炭山地域の山林「谷山サブロー」が活動のフィールドです。ここは120種を超える樹木や40種以上の野鳥や多くの蝶が生息する豊かな自然が残されています。しかし50年ほど前に植林された人工林は放置されたままで、多くの松枯れ・ナラ枯れに続きシカの食害が深刻化するなど、今後を考えると心配なことが増えてきています。そこで宇治きこりの会は、豊かで元気な森を育てることで「学び、遊び、体験できる森」にしようと森林整備を進めています。
谷山へ上がっていく道を進むと、目の前が開けてきました。そこに「谷山360°」という看板。一瞬アレ!?っと思ったのですが、360→サブローなのかもと思いつきました。スタッフの方に確認しそびれてしまったので、あくまでも個人的な感想ですが・・・・。
代表の桑村さんが、この山の成り立ちや経緯、現状などについて説明をします。
50年ほど前に国の施策としてヒノキが植樹されたものの、その後の手入れが続かず、今では地域の40%を占める人工林は放置されたままだそうです。真っ黒で荒れ放題の中、シカの食害で下層植生の低木や新芽が食い尽くされ後継木が育たず、シカが食べない樹木のみが増えてきています。もともと堆積岩の上に薄い表土という地質のところ、2012年の豪雨で急斜面の山の表土が崩壊するなどの被害が出たとのこと、そのままに放置されている様子も見えました、人工林をそのままにしておくと今後も豪雨などでの災害が広がる恐れがあります。災害以降、周辺の住民の関心も高く、自主防災組織やボランティア組織が立ち上げられ、倒木処理や間伐場度が進められているとのことでした。
今回の体験は皮むき間伐。ヒノキの表皮を剥いて木を立ち枯らせてから間伐する方法です。木の皮を剥くと木が水を吸い上げることができなくなり、生えたまま枯れていくのだそうです。そのため徐々に葉が落ちてい き地面に光がさすようになり、下草の種類が増えていくことになるとのことです。そして立ち枯らした木は水分が少なくなるので、軽くなり、運び出すのも楽になるとのこと。
まずは、残したい木をみんなで選びます。幹の伸び方や枝ぶり、周辺の木との関係性や間隔など、いろいろな要素があるそうですが、それらを総合的に判断して決めるのだそうです。特に正解があるわけではないので、参加したみなさんの思いも大切にしているとのことでした。そして、間伐対象の木を決めていきます。
ノコギリで木の幹に沿ってぐるりと皮に切れ目を入れます。
切れ目から工具を差し込み、皮を浮かせます。
そして手でしっかりと木の皮をつかんで、ぐっと力をいれてはがします。
はがした木の皮の下から顔をのぞかせたのが、きれいで若々しい木の幹。輝いています。
「それでは、やってみましょう」と、すぐに参加者に工具が渡されました。残す木と間伐する木をどうするか、1本1本、代表の桑村さんが相談に乗っています。間伐する木を決めたら、教えてもらった手順で進めます。こういう感じでするんだっけ!?、いやもうちょっとしっかり深く傷をつけた方がやりやすいかも・・・など、参加者同士で話をしながら進めています。皮むき間伐は、木の表皮をむいてしばらくの間そのままにしておくという方法で、どうしてもこうでなくてはならないというあり方はないのだそうです。
まずはやってみるということで、あちらこちらで作業が始まっています。
子どもたちも、見よう見まねでやってみます。
それぞれの木の状況や力の入れ具合によっても違いますが、するすると皮が剥けていく木もあり、見ていて爽快です。何人もの人が1本の木の皮を剥いていく様子は、パラシュートの傘が開いたような見ごたえがありました。
1時間ほどの作業で、皮むきが終わりました。写真を撮影してる立ち位置の後ろ側にも皮を剥かれた木が5~6本あります。陰になって日が差さない斜面ですが、皮を剥いた木はとても明るい色です。
切り口はこんな感じ。
思った以上に皮は厚みがあります。
剥いた皮が、あちらこちらに。
ひと仕事を終え、思い思いに斜面を降りていきます。
今日作業していた斜面には日はさしていませんでしたが、振り返ってみると青空が広がっていました。心地よい風も吹いていて、先ほどの皮むき間伐の作業が、まるで一瞬のことのようにも思えました。
宇治きこりの会では、この谷山サブローを有効に使って、野鳥観察会や自然観察会、山菜採取や草木染、キノコの菌うち、薪づくり、ツリーイングなど、様々な体験を提供しています。子どもたちが喜ぶようなことが盛りだくさんです。四季を通じて、いつ来ても違った楽しさが感じられると、また行きたい!になるのだろうと思います。近隣の小学校からは全員が山に来たことがあるのだそうです。身近に楽しめる自然があるのは、住んでいる人にとっては当たり前のことでも、実は得難いことです。
1人で参加している高校生がいました。桑村さんが「アケビ取りに行くから手伝って」と声をかけると、慣れない感じで後をついていきました。
アケビは初めてだそうで、最初はおっかなびっくりでしたが、慣れてくると口に含んで「好きな味です」とのこと。桑村さんとメンバーが山のことや山仕事のことを話し始めると、とても興味深そうに聞いていました。大学では森林・林業に関する専門学科へ行きたいと思っているそうです。「いい高校生に出会えたなあ」と代表の桑村さん。参加者の「楽しい」を作り出して何度も山へ足を運んでもらうための工夫が、そこかしこにあるイベントでした。