小さな谷の小さな暮らし─自然とつながり生きる力を育むワークショップ /志賀郷ゴキゲン化計画
事業の概要
京都府綾部市の志賀郷町の藤谷は水源部であり、山に囲まれた極小農地です。地域外ファミリーに対する、宿泊を伴う年間プログラムの展開により、地域に住み続ける新規移住者の増加を図ります。同時に農地保全作業に取り組むことで、谷の荒廃自体の歯止めにつなげます。
2021年6月5日、京都府綾部市志賀郷町に、志賀郷ゴキゲン化計画の皆さんの田植えに伺いました。志賀郷町はJR綾部駅から車で15分くらいの山里です。
「小さな谷の小さな暮らし─自然とつながり生きる力を育むワークショップ」と名付けられたこの事業では、参加を希望した家族が一泊二日のワークショップに1年間通して参加し、無農薬で米や野菜を育てて志賀郷での生活を体験します。
今回は、1年間参加するかどうかのお試しとして参加してもらうイベントでした。4家族と地元の子どもたち、スタッフとその家族で、とてもにぎやかです。
朝、志賀郷ゴキゲン化計画代表の金田克彦さんの家に集合して、このワークショップの目的、今日の作業予定、参加者の簡単な自己紹介を行いました。舞鶴や京都市内からの参加がありました。
植物観察の専門家の方も参加されていて、「綾部市は里山の自然に恵まれているので、コウノトリがよくやってきます。」と挨拶されていると、まさにその時に上空をコウノトリが横切っていき、さっそく自然の豊かさが裏付けされました。
全員の自己紹介が終わったら、田んぼへと向かいました。この谷が志賀郷ゴキゲン化計画の皆さんのフィールドです。名前は藤谷、山からの水が頼りという田んぼが奥まで続いています。こちらも山が迫っているため、シカ除けネットが張り巡らされていました。
今日はこの田んぼの田植えを行います。
この田んぼは耕作放棄地だったそう。これで2反程度の広さです。
まずは田植えの説明を、プログラムリーダーの水田裕之さんから。手に持っているのは、田植え綱です。綱に一定間隔の玉が付いているので、この玉に合わせて苗を植えていくとよいそうです。
水田さんも移住者で、農業を行いながら民宿も営んでいます。
「植えるのは日本の一般的な米のコシヒカリです。苗床から抜いて、赤ちゃんみたいなものだから、大事に扱ってください。普通、このくらいの田んぼなら400キロくらいお米がとれます。でも、ここでは肥料を入れない、除草剤も使わないから草を取らないとあかんのです。 日本人は一年に平均で一人60キロ米を食べると言われています。だから一家族が一年食べられるくらいの米がとれる、かもしれません。」
説明を聞いてから、いよいよ田んぼに入って田植え開始です。田んぼの両端に大人がスタンバイし、田植え綱をくくりつけた竹を挿して、その綱の玉を目印にして植えていきます。
「はーい、次行きますよ!」と掛け声をかけあって、次第に前に植え進めていきます。
午前中には田んぼの半分までは植え終わりました。残りは明日植えるそう。
それぞれに持参したお弁当でおひるごはんです。
金田さんのお宅の庭にテントを張り、ゴザを敷いてのんびりお昼休み。
午後からは、畑で大豆の種まきです。
まずは水田さんの説明から。
「大豆は米と合わせれば味噌になります。この大豆は、志賀郷町のコニちゃん農園の大豆です。10キロとれたらいいと思います。
それから穴を開けて大豆を2粒くらい入れ、土を薄くかけます。25センチくらい間隔をあけてください。前に植えたトウモロコシはカラスが食べてしまったところがあるので、枯草でカバーしましょう。」
田んぼ・畑の畔の雑草を刈った後の草を集めて、大豆の畦をマルチ。
これでカラスが見つけにくくなるはずということでした。
続いて夏野菜の苗も植えます。畑のそばを流れる山の水を汲んで、子どもたちが苗にたっぷり水をやります。子どもたちが大活躍。
途中で「ヘビだー!」という声が上がり、みんな集まっていくと……そこには小さなヘビがいました。そのうちの一人の子は「うちに持って帰る」と手でつかんでうれしそうでした。なんてたくましいこと!
志賀郷町自体、道路が行き止まりで、またこの藤谷も奥は山で、抜け道はありません。閉じられた小宇宙のような環境です。農作業をしている周囲の山からは、うるさいくらいにウグイスや野鳥の鳴き声が聞こえ、田んぼにはたくさんのオタマジャクシが泳いでいます。
藤谷には昔ながらの里山の風景がありました。
しかし、日本中どこも直面しているさまざまな問題が、志賀郷でも問題となっています。今回田植えした田んぼと大豆を植えた畑も、耕作放棄地を借りています。獣害や高齢化、過疎化により谷間の農地が放棄されているのです。小学校も昭和の時代には500名以上いた児童は現在50名程度となっているそうです。
そこへ、京都市からの移住歴20年の大工の金田さん、京都市からの移住歴12年の農家の水田さん、東京からの移住歴3年の石崎さんの3人が中心となり、志賀郷ゴキゲン化計画を立ち上げ、この藤谷で農業を行いながら移住家族を応援することにしました。
代表の金田さんは
「この一年間は農業を体験するだけでなく、獣害対策として罠を仕掛け、もし捕まえることができればさばいて食べるし、水路の維持のために溝掃除をする、獣害除けの柵に蔓がからまっていたら、それを刈りながら植物の勉強をする。そんなふうに里山の暮らしを楽しんでもらう予定です。しんどいことは、みんなで力を合わせてやっていきたい。
移住家族を迎えることで、この藤谷の耕作放棄地が全部復活するといいな、と思っています。
そのためには、一か月に一度、宿泊費と交通費に助成金が使えることが、参加家族への負担を減らすので、とてもありがたいです。3年間の夏原グラントの助成が終わった後も回していけて、全国でモデルとなるようなプログラムにしたいですね。」と力強く語ってれました。
志賀郷の藤谷に子どもたちの声がこだまする、こんな光景が日常となるよう期待しています。