彦根ブナの会 植樹活動 /彦根ブナの会
事業の概要
滋賀県多賀町の山に、ブナなどの落葉広葉樹を植樹し、獣害から守るためにさらし竹を土に埋め、その周辺を網で囲い、針金でとめるという作業を行っています。荒天を除く毎週日曜日と祝日に山に行って、植樹と下草刈りなどの作業を続けます。
2022年5月22日日曜日、彦根ブナの会の活動を訪問しました。朝9時半にメンバーが集合場所に集まります。彦根ブナの会は2020年度と2021年度の夏原グラントファーストステップ助成、2022年度からは一般助成を受けています。
代表の山下紘一さんと、事務局長の小櫻純さんから、今日の作業の振り分けやスケジュールの確認があり、それぞれ車に分乗して活動フィールドに移動します。
彦根ブナの会では、2008年から毎週日曜日や祝日に集まり、作業を行ってきました。
対向車が来たら離合も難しいような細い山道を走って、活動フィールドのふもとに着きました。車を置いて山を登り始めます。
山へ入る前には、足元にヒル除けのスプレーを噴霧します。こうしないとヒルに入り込まれて、肌に吸い付かれてしまうのです。
念入りに噴霧されていましたが、途中で「靴の中にヒルが入ってました!」という声が聞こえてきました。幸い、吸い付かれることもなく、取り除くことができたそうです。
皆さん、手に手に竹と金属の支柱を持ち、山道を運んで行きます。
自分で好きな場所に行き、山のあちこちにある倒れたネットや囲いを復活させる作業を行うのだそうです。
全国の山間地と同様に、この山でもシカが増えすぎて食害がひどい状態です。
苗木を植えても、そのままにしておくと、たちまち葉を全て食べられ、苗木は枯れてしまいます。
そこで、葉がシカの口に届く範囲にある、まだ背の伸びていない苗木は、ネットですっぽりと覆っておく必要があります。しかし、一度囲ったから終わりかというと、このあたりの冬には雪が積もるため、春になるとネットは倒れてしまい、もとの木阿弥。そこでネットの支柱を立て直す作業をしなければなりません。
雪のため、このように曲がった金属の支柱を抜き、まっすぐの支柱と取り換えて、ネットを張りなおすのです。
うっそうと茂る植林された地帯を歩いていくと、ぽっかりと明るい広場にやってきました。
ここは植林されていたスギやヒノキが、シカの食害、豪雪、害虫、台風など、なんらかの原因で倒れて枯れてしまったためにできた場所だそうです。このような広場がこの山には他にもあります。広場に残っている植物は、全部シカが嫌いで食べないものだけです。緑がいっぱいに見えても、ほぼシダ類のみとなっています。
彦根ブナの会の皆さんは、この広場に広葉樹の苗木を植えて、スギとヒノキが植林される前の広葉樹の森を取り戻そう、と活動を続けているのです。苗木は、この山に生えている木からの実生のものが中心です。
この日、会員のお一人が持参された苗木は、そうして2年か3年ほど自宅で育ててきたものだそうです。
穴を掘って苗木を埋め、周囲に竹の支柱を立てて、ネットをかぶせます。
ネットをかぶせたら、針金で支柱に結びつけ、固定します。
真ん中の青いものは支柱を地面に挿すための穴を開ける道具です。
彦根ブナの会では、竹の支柱や金属の棒、ネット、ボランティア保険、この道具などに助成金を充てています。
山道を歩いていくと、あちこちにネットで囲まれたゾーンがあり、その中に一本ずつネットですっぽり囲まれた苗木が植えられていました。
「まず助けたい木の囲いを復活して、その後、大きな囲いを復活させる、というやり方です」と、案内してくださった会のメンバーの森澤さん。
こちらは、手作りの道具(黄色い棒のようなもの)で曲がってしまった金属の棒を真っすぐに伸ばしているところです。直した棒はまた支柱として使います。
急な斜面には手作りの階段が。これは直前に「お客さんが来られるから」と設えてくださったとのことです。おかげで楽に登れました。
更に急傾斜の道には、ロープが張ってあり、それを頼りに山の頂上付近まで登ってきました。
「最初に来た時には、このあたりは全部、土がむき出しになっていました。ネットで囲んでやると、その内側にはススキなどが復活してきて、やっとこんな感じになったんです。」
「むき出しの地面に多量の雨が降れば、すぐに土砂崩れを起こしそうでしょう。こんな危険な状態を見かねて、彦根ブナの会の会長の山下さんが、最初は一人で、自腹で買って防獣ネットを張り、苗を植える活動を始めたんです。それは1996年のことでした。その後、私も参加して3人くらいに増え、最近になってこんなにたくさんの人が参加してくれるようになりました。でも、会長が一人で費用を出し続けるのは難しいし、次の人に引き継げません。だから、夏原グラントの助成金は本当にありがたいです。」
と、山道を先導してくださった森澤さんが教えてくれました。
2022年現在の会員は25名。
会員の年齢は20代から80代まで。
会に参加するきっかけもいろいろだそうです。
登山の好きな人、オフロードバイクの好きな人、知り合いの知り合いに誘われて、など。
会社をリタイアした男性は「家にいても何もすることがないから、ここに来ています。すると、最初はきつかったのに、体もだんだん慣れてきましたよ。」と笑って教えてくれました。
昼食後は、そのまま残って作業を続ける皆さんと分かれ、ブナの大木のところに案内してもらいました。
もともとこの周辺にはブナが多かったそうですが、ほとんどが伐採されてしまい、大木はこれ以外に残っていないそうです。
このブナの幹にはコケが付いています。それをブラシで掃除します。
ブラシで軽くこすっただけで、コケはすぐにはがすことができ、コケの跡は濡れていました。
小櫻さんは「私は、3年前にこの作業をして、少しは木が弱るのを防げたような気がしました。すっかり魅入られてしまい、これがきっかけとなって彦根ブナの会に参加することになったんです。」と教えてくれました。
今日の最後の作業は、会の皆さんが「畑」と呼んでいる場所の防獣ネットの復活でした。この畑にはブナの苗を20年ほど前に植えたものが、ネットも不要なほど成長しています。
彦根ブナの会は滋賀県からSDGs団体の認証を得て、連携先も増えていきそうだとのこと。毎週根気強く続けてこられた活動が、今、広がり、成果が現れてきているようです。
この夏原グラントの助成を活かして、活動も団体としても更なる飛躍を期待しています。