京都自生の絶滅寸前種の保全育成を推進する /源氏藤袴会
事業の概要
京都府で絶滅寸前種となっている植物、藤袴(フジバカマ)を挿し芽して鉢植えにして育て、10月には藤袴祭を開催します。スタンプラリーや銭湯での藤袴湯など、さまざまな形で藤袴の花に触れて嗅いでもらい、京都で万葉の時代から愛されてきた花に親しんでもらいます。この花にはやはり絶滅危惧種である蝶、アサギマダラをはじめとした多くの昆虫が蜜を吸いにやってきます。
2023年7月7日の午前中、京都市中京区の御所南小学校に伺いました。この日は、源氏藤袴会(ふじばかまかい)の皆さんが育てたフジバカマの苗を、3年生が自分で鉢に植え替える日でした。秋まで学校で水やりをして育てるそうです。この活動は「京都自生の絶滅寸前種の保全育成を推進する」事業です。
200メートルも北へ歩けば京都御所の敷地という京都の市街地の真ん中に立地する御所南小学校。午前10時に小学校の玄関に着きました。七夕の笹が飾ってあります。
ブルーシートの上で、準備万端の源氏藤袴会メンバーが待ち受けています。3年生がクラスごと、順番に土の入った鉢を1つずつ持って苗をもらいにやってきます。
子どもたちは、自分で 割り箸を使って2つ穴を開け、源氏藤袴会のメンバーの皆さんにアドバイスをもらいながら、そこにフジバカマの苗を植えていきます。
植え終わったら、ジョロでしっかり水をやります。
水をやったら鉢を運んで、ひな壇に並べていきます。
小学校のグランドの隅っこに、鉢に入れるための土を作っている場所がありました。源氏藤袴会の育成部長の馬場さんが、汗だくになりながら、昨年使っていた土と、新たに購入した腐葉土、園芸土などを混ぜ、子どもたちが持ってきた空の鉢に土を入れていました。
子どもたちは土の入った鉢を持って、校舎の周りをまわって玄関横に持って行くのです。
ひとつのクラスが終わると、次のクラスの子どもたちが鉢を持って苗をもらいにやってきています。事務局長の寺田さんも、子どもたちに苗を分ける係です。
苗を植えられた鉢が整然と並んでいきます。
担任の先生が「後で水をやっておくね」と言うと、「いやー!僕がやるー!」と言って水やりする子もいました。もう愛着が湧いているようです。
教頭の川戸先生は「土と苗、全部準備してくださってありがたいです。源氏藤袴会のメンバーの皆さん、全員80代なんですが、子どもや私たちより、お元気なんですよ。子どもたちが水やりして自分で育てると、花が咲いた時のうれしさもひとしおですよね」と教えてくださいました。
別の担任の先生は「今年もいい感じに育つといいですねえ。去年、すごく育ったから」とのこと。
夏原グラントのロゴマークも貼りだしてくださっていました。ありがたいです!
3年生177人全員分の鉢が並んだら、片付けて撤収です。メンバーの皆さんは解散となりました。お疲れさまでした。
解散後は、源氏藤袴会の代表、馬場備子さんのご案内で、苗の栽培場であり、秋の「藤袴祭り」の展示場のひとつでもある、革堂行願寺に行きました。御所南小学校で育ったフジバカマの鉢も、展示のために小学生が手で持って運んでくるそうです。
こちらはちょうど蓮の花が咲き、美しい花のお寺という印象です。
「フジバカマを町内で育てたい、と思った時、その場所がなくて困りました。そんな時に快く場所を提供してく だったのが、革堂行願寺のご住職だったんです。それで、会の活動がようやくスタートできました。」と馬場さん。
お寺の境内には、フジバカマの鉢が所狭しと並べられています。またここで作る自前の腐葉土は、京都大学馬術部からもらった馬糞も混ぜて発酵させてあり、京都の中で資源として循環させているんですね。活動場所にも「夏原グラントから助成を受けています」というロゴマークと表示を貼ってくださっていて、本当にありがたいです。
茎を刺して、せっかく芽が出ても、根が出ないものもあるので、今年は7000本挿し芽したのだとか。真夏には、この苗に朝夕水やりが必要なので、旅行になどで掛けられないそう。かなりハードです。
そんなフジバカマ保全活動を始めるきっかけは何だったのでしょうか?
「11年前の2011年、京大名誉教授で京都市緑化協会理事長である森本幸裕氏のお話をお聞きし、私たちが子どもの頃には京都市内で川の土手とかに普通に咲いていたフジバカマが、今や絶滅しそうになっていると言うじゃありませんか。しかも、フジバカマ一種類がなくなるだけではなく、その花の蜜を好むアサギマダラという蝶などの昆虫も一緒にいなくなってしまう。
それを聞いて、えらいこっちゃ!と思って始めました。」と馬場さん。
京都固有種のフジバカマの遺伝的多様性を守るとともに、京都外の自生地に育つフジバカマの遺伝的多様性を壊さないというのも大切なこと。そのため会の活動では「フジバカマ三原則」を守って増やしているそうです。それは「1.種から育てない。2.京都から出さない。3.他府県の藤袴を入れない」というもの。苗は全てが、京都市西京区大原野の明治池で発見された、京都古来種で準絶滅危惧種とされる大原野原種のフジバカマを挿し芽で増やしたも のだそう。
フジバカマには園芸種もあるそうで、種だとDNAが混ざってしまう可能性もあるんですね。
栽培現場の見学のあとは、藤袴祭の時にフジバカマの花の鉢を飾る会場を少し案内してもらいました。スタンプラリーのポイントとして、多くのお客さんが訪れるそうです。キリスト教会、神社、お寺、大学の建物など、宗教も宗派も超えて地元への協力をしてくださっているとお聞きしました。
「最初は何をしてるんだ?という目で見られましたが、続けているうちに、朝、花の香りがする。この花がこんなにいい香りとは知らなかった、と言ってもらえるようになりました。」と馬場さん。地元の皆さんから信頼されていることがわかります。
また、今年初めてフジバカマの香に含まれる成分の効能についての駒井功一郎氏の講演会を企画・開催。実際に活動の自立を目指して、花の芳香成分を使った製品も開発して販売しています。
また、「森本幸裕氏から『フジバカマがここまで少なくなってしまった原因には環境が悪くなったことと、人が利用しなくなったことがある。含まれる成分の効能を知って使いたい人はフジバカマを大事にするだろう。』と伺ったことから、平安の昔、洗髪に使われていたという成分を使ってボディソープやアロマ水などを開発しました」。そこまで考えての商品開発だったとは。アロマ水を試してみると、自然の芳香で心落ち着くものでした。
馬場さんは繰り返し「フジバカマは平安時代から人々に親しまれ暮らしに取り入れられていた植物です。そんなフジバカマは京都の文化でもあるので大切に残していきたいのです」とおっしゃっていました。
今年(2023年)10月13日(金)~16日(月)開催の藤袴祭で、この並木道の両側に美しく咲いたフジバカマの鉢が並ぶ光景を見てみたいと思いませんか。
源氏藤袴会の活動や藤袴祭情報は、▼こちらからご覧いただけます。
源氏藤袴会の皆さん、これからもお元気で長く活動なさってください。応援しています。