希少生物の棲む石積み水路の補修と林産物の有効活用を目指す炭焼き事業の推進 /天引区の活性化と未来を考える会
事業の概要
京都府南丹市園部町の天引区の「むら」を流れる石積み水路には、希少生物が棲んでいます。しかし、石積みの破損が目立つようになり、修復が必要ですが、コンクリートは使わず石積みで補修することで、希少生物の生息環境を保全したいと思います。また、山の手入れを行い森林資源の有効活用を図るため、炭焼きを復活して定着させたいと炭焼きイベントも計画しています。
2023年11月19日、天引区の活性化と未来を考える会が取り組む炭焼窯の管理と休息のための簡易な炭小屋の様子、併せて石積み水路の修復作業を見せていただきに伺いました。
京都府南丹市園部町の天引区には「むら」を流れる石積み水路があります。ここにはオオサンショウウオやマツカサ貝など希少生物が棲んでいます。今回夏原グラントで取り組むのは、近年石積の破損が目立ってきた石積を、あえて周辺の住民のみなさんで、コンクリートではなく石積で補修し、生物の生息環境を保持しようとする取り組みです。そして炭焼文化継承のために炭焼き窯破損個所の修復と、炭焼きのための用具の保管、火の管理、休息のための簡易な炭焼き小屋作りです。
当日は11時に現地にお邪魔し、まずは炭焼き小屋から見せていただくことになりました。国道から車で5分ほど入っていったところに炭焼窯がありました。
この炭焼窯は地面を掘って作った土窯で、地上に見えているのは屋根と煙突だけです。周りの風景になじんでいるので、うっかりすると見過ごしてしまいそうな感じでした。「炭焼窯は、昔はこの奥にもたくさんあったのですが、長い間使われずに放置されていました。それではもったいないということで、それほど奥に入らなくてもよく、修復できそうなこの窯を再生することにしました」と、事務局長の原田さんが説明してくださいました。ここ天引区だけではなく、炭焼きの技術を持った人の多くは高齢のためその継続が危ぶまれているところもあり、また各地でいろいろな取組が行われています。今回この炭焼窯修復と技術を伝えることに協力してくださった方も、ご高齢でした。
そしてこれが、炭焼き小屋です。山に入っていく道を挟んで、炭焼き小屋の反対側にあります。
炭焼きのための道具・焼きあがった炭の保管、火の見張りのためのスペース、そして休息といった目的に合った小屋を作ろうと、みんなで知恵を出しあったそうです。その甲斐もあって、とても使いやすい小屋ができたと、みなさん、大喜びだそうです。
内部はこんな感じです。
入り口横の空いている押し出し窓から、炭焼き小屋が見えます。(光線の具合で、はっきりと炭焼窯を画像に収められずに無念)
「炭焼を始めると火の番をしなくてはならないけど、この小屋で番ができるようになり、本当に楽になった。窓から覗いてわかるのがとてもありがたい。これも助成金のおかげです」とのことです。いえいえ、小屋から炭焼きの進捗状況が見えるような窓があるといい、というみなさんの知恵の賜物です!
最近、地域外から炭焼きを学びたいと来られる若い方が増えてきているそうです。そんな人たちにとっても、この小屋は大きな意味があるそうです。「炭焼は重労働で時間がかかる作業なので、若い人にはとっつきにくいかもしれません。でも小屋があることでその労力や大変さが少しでも楽になったと思えれば、炭焼きを続ける意欲にもつながりますし、それが技術の継承になりますから」とのことです。昔の炭焼きは燃料確保という生活を支える必須の作業でしたが、今は違います。便利な生活の中で、あえて炭焼をするということは、楽しくなければ続きません。小屋のもつ可能性に気づけた時間でした。
窓の反対側には、炭が置いてありました。
午後からは、むらを流れる水路の石積修復作業を見せていただきます。
「このあたりは既に修復したところです」とのこと。いっぺんにということにはいかないですが、少しずつ進めてきている作業なので、だんだん見通しが立ってきたそうです。
今日はメンバーのみなさんが午前中から作業をされているそうです。作業は蛇行している水路のまんなかあたりです。
水路の法面(のりめん)の石垣には、このようにつる性植物が絡みついています。
このつる性植物を引きはがしながら、石を取り外していきます。
石を取り外してみると、際に生えている植物の根が張り出してきていることもあり、それは切り落とします。
「こうして周りの木の根が水路側に張り出してくるから、石垣が崩れてくるんだわ」とのこと。本当にその通りです。根がどの方向へ伸びていくかは地上からは見えませんから、それを防ぐ手立てはなかなか見当たらないのだろうなあと思います。
絡まっていたつる性植物と張り出してきていた根を整備して、法面を整えます。
そして、取り外した石を戻していきます。遺跡の石垣修理のように石ごとに番号を振って同じ場所に戻すということではなく、みなさんの知恵や経験を頼りに、ここにはこの石をという感じです。
必要であれば、砂なども足していきます。
この日は作業をされている途中で帰ることになったので、この場所の石垣修復の完成を見ることはできませんでした。それでも、前に作業して終わったところを教えていただいたので、そこを写真に撮りました。
とてもきれいです。作業を進めて、このように石積み水路を整えていくとのことです。
炭焼き小屋と石積み水路の整備。それぞれの作業は、地域に住む人々が生活の中で培ってきた知恵や技術に支えられ、周辺の良好な環境が保たれています。世代を超えて知恵や技術を引き継いでいかなくては、それが叶わなくなります。これは今、地方のあらゆるところで起こっています。天引区ではそれに対して、丁寧に慌てずに、でも先を見越しながら取り組んでおられます。そして、炭焼き文化の伝承も、石積修復の作業も、みなさんが力を出しあって楽しそうにされている様子が印象的でした。これらの取り組みの先にある天引区、ぜひ訪れてみたいと思いました。