生ごみ処理機の改善 /ブルーシー阿蘇
事業の概要
京都府宮津市の周辺民家から出る生ごみを、現在7台の処理機で、生ごみを発酵肥料に変えて野菜の栽培の土づくりに利用しています。その処理機を大きくして性能を向上させるための改造を行い、野菜の販売量を増やします。
2023年10月10日、天橋立の近くのNPO法人ブルーシー阿蘇(以下ブルーシー阿蘇)を訪問しました。
以前も夏原グラントに採択されたことがある(▼2017年~2019年「太陽熱回収用へどろヒートポンプの開発」)団体ですが、今回は「生ごみ処理機の改善」という事業での採択です。その処理機が完成したというお知らせをいただき、それを見せてもらうためです。
まずは拠点の事務所で、代表の松森豊己さんから、どのような背景で、どのような理論に基づいて活動しているのか、パワーポイントでのレクチャーを受けました。
今から20数年前、天橋立に囲まれ漁業も盛んだった阿蘇海は、ヘドロ問題が持ち上がっていました。水は汚れ漁獲量は激減、悪臭もひどかったそうです。その時、環境を考える会が立ち上がり、松森さんが顧問となりました。そして阿蘇海のヘドロから、ゼオライトを造る研究を任されたそうです。
ゼオライトには水質改善、吸湿性がよいなど、多様な使い道があるとのこと。確かに猫などのトイレシーツにも使われています。ほかに微生物が棲みやすい、保肥力が高いなど土壌の改善効果もあるそうです。
そこで、松森さんたちは生ゴミにゼオライトを混ぜて回転式処理箱で発酵肥料(土)に変えるという「宮津方式」を開発し、実際に畑の土に混ぜておいしい野菜を作り、それを販売するという「エコの環(わ)」事業を2012年に開始しました。
説明が終わってから、今回のテーマである、生ごみ処理機を見せていただきました。事務所の隣の倉庫に置いてあります。
こちらが改良型の生ごみ処理機です。
ちゃんと夏原グラントのロゴマークを大きく付けてくださっています。
箱には上下に蓋があり、上のフタは常に開けた状態で、代わりに虫よけ用のネットを被せておきます。フタにはたくさんの通気穴が空けてあり、下のフタから空気が侵入して発熱による蒸気を上に押し出し、内部をべとつかせないようにして発酵させるしくみです。
ネットのフタを開けて、中を見せてもらいました。
朝、まず処理箱を奇数回、回転して反転させます。
そして民家から集めた生ごみに市販のゼオライトと米ぬかを混ぜ入れ、フタを閉めてから今度は偶数回、回転させて終わり。全部で五回転、そのまま一日置いておくだけだそうです。
真ん中にはプロペラのような「じゃま板」が付いているので、箱を回すことで生ごみが撹拌されるんですね。生ごみは既に土のようで、中は全く腐ってはいません。独特の臭いも確かにしますが、決して腐敗臭ではありませんでした。自然にそのへんにいる菌だけで発酵が進むというのです。電気も使わないし、混ぜるのはゼオライトと米ぬかだけ。
松森さんが実際に撹拌作業を見せてくれました。
掛け金を外し、上ブタをきっちり閉めたら、回転させます。
「発酵しているから、あったかいんですよ」と松森さん。確かに、ほんわかと温かみを感じました。
「回転させないと、底に水分が溜まるので腐ってしまうんです。この処理機は底から水分が抜けやすく、かさも減ります。」
生ごみが発酵分解すると、細かい土状のものと、大きな未分解物「ガラ」にふるいわけられます。ガラとは、生ごみを発酵させたときに、どうしても細かく分解しないもののこと。
そして、松森さんが力を込めて説明されたのが、このガラでした。
「最初、ガラは捨てていたんですが、試しに土に埋めてみたところ、数週間後には消えてしまったんです。その土で野菜を作ると、甘味が濃くて評判がいい。それもそのはず、このガラは食物繊維の塊なのですから。現在では、畝を作る時に30センチくらい掘ってからガラを入れ、3週間置いておき、それから苗や種を植えるようにしています。」
生ごみから作った肥料とガラで野菜を作っている、副理事長の笠井さんが、ご自分の畑に連れて行ってくれました。
畑ではりっぱなナスやキャベツが育っていました。
会員がこうして作った野菜は、定期購入者や市内で販売し、またレストランでも味の良さを評価して使ってくれるお店があるとのこと。
「でも、無農薬だから虫がいっぱいで、食べるところが少なくなります」と笠井さんは笑いながら、虫との闘いを話してくれました。人間が食べておいしい野菜は、きっと虫にとってもおいしいのでしょう。
次は、別の畑へ。こちらは10月8日に農業体験ツアーを行ったとのことです。
若い人もたくさん参加してくれて、とてもにぎやかだったそうで、松森さんたちは農業の次世代の担い手として育ってくれたら、と期待しています。
松森さんは地球規模で問題をとらえ、この活動がSDGsの何にあたるのかを考え、説明してくださいました。
だからこそ、農業を大切にしなければ、と若い世代へ期待しているのだそうです。松森さんは80代。とてもお元気です。ブルーシー阿蘇の他のメンバーも、工学部出身、元教員、元サラリーマンで、農業を仕事にしていた人はいないとのこと。皆さん定年後もパワフルに環境問題に取り組まれていて、こちらまで元気をいただけました。
帰り道、松森さんの車で駅まで送ってもらうときに、天橋立の松並木と阿蘇海が見えました。
あいにくの時雨で、海は灰色でしたが、電車に乗ると天橋立の上空に美しい虹がかかっていました。それは松森さんが見せてくれた、SDGsの色のようにも思えました。
ブルーシー阿蘇の皆さん、これからもお元気で、身近な環境問題に取り組んでくださることを期待しています。