ヨシの活用によるヨシ原の保全 /まるやまの自然と文化を守る会
事業の概要
団体の地元である滋賀県近江八幡市円山地区は、ヨシ原がヨシ工芸品の材料として大切に管理されてきました。しかし生活様式の近代化により、ヨシの需要が減ってきています。そこでヨシ工芸品の開発、制作、展示、販売などを行い、販売サイトを作成します。
2023年10月21日、まるやまの自然と文化を守る会が開催する「ヨシフェス」を訪問しました。
まるやまの自然と文化を守る会は、多様な主体が協働して地域資源を最大限に活用することで維持されてきたヨシ原と、円山の暮らしが築いてきた「自然」「生態系」「伝統文化」を共に大切にし、尊重し、取組を続けてきました。生活様式の近代化によりヨシの利用・需要が減少したことが原因で出荷量が大幅に少なくなり、管理が不十分なヨシ原が増えてきているのです。保全のためのヨシ刈りやヨシ焼きだけではなく、ヨシ工芸品の開発や製作、よし笛の製作や演奏などを通じて、ヨシの魅力を広め、ヨシ製品の需要を高める取り組みを進めています。
今日のヨシフェスは、その魅力を伝える大事なイベントです。
イベントのプログラムは10:00~17:30まででしたが、現地についたのは14時過ぎでした。午前中の「手作りヨシリースのワークショップ」「バームクーヘンづくり&リサイクルキャンドル」は、既に終わっていました。
まずは腹ごしらえ。ヨシの葉を粉末にしたものを生地にねりこんだ葦うどんです。会のスタッフの方々が準備してくださっています。
テントの下で陰になっているので、写真では暗めに映っていますが、きれいな緑色をしています。
おいしい葦うどん。この日は前日から5℃ほど気温が下がり、風がよく通る場所だったこともあり少々寒さが身に応えていたので、温かいうどんは心までほっこりとさせてくれました。今日は朝から100食以上出ているそうです。
会場に入ってすぐの正面にヨシズトンネル。
ヨシズトンネルの内側上部にたくさんのモビールが吊り下げられていました。こんなに大きいものも。
午前中のワークショップで作成していたのかなとぼんやり見ていたら、こんなものを発見。
「ヨシのヒンメリ 作り方」。
ヒンメリは北欧フィンランドの伝統的なモビールで、細い藁で作られた幾何学模様の多面体をつなぎ合わせたものだそうです。「細い藁」のところが「ヨシ」なんですね。全国でもいろいろ作られているそうですが、これはワークショップとしてかなり魅力的なアクティビティです。軽いし、藁より扱いやすそうだし、何と言っても工夫しだいで無限大の可能性があります。
横を見ると、ヨシのヒンメリを飾り付けている方たちが。
本当にいろいろな形があります。
きれいに並びました。
ヨシズトンネルの横には、ヨシで作った小屋がありました。
副会長の宮尾陽介さんが「設計図もなく、剪定枝を使った掘っ建て小屋に、簡易な茅葺き屋根を乗せたんです。」と説明してくださいました。
入口の横に、チップ化したヨシが重なりあって貼り合わされているボードは「ヨシストランドボード」というものです。ストランドボードとは、薄く削ったチップ化したヨシを乾燥させた後、合成樹脂接着剤を加え、高温・高圧でプレスして作られたもののことで、それをヨシで作ったのが「ヨシストランドボード」。まるやまの自然と文化を守る会は、ヨシストランドボードの普及・開発にも関わり、商品化に向けた取り組みを進めているとのことです。「知名度はまだまだですが、装飾的な建築材料としての可能性は大きいと思っています」とのことで、実際に滋賀県内の店舗でも使用されているそうです。チップ化したヨシを張り合わせているので、向こう側が透けて見える感覚もあり、使い方によって多様な表現性を演出できそうです。
「今回、ヨシ舟も作りました」と案内してくださったのが、こちら。
周りの方々から「これ、乗れるんですか?」と聞かれ、副会長の宮尾陽介さんが、ひょいひょいと乗って見せてくださいました。
「作って乗れるということを検証したかったんです。そして、いける!と思えました」とのこと。来年のヨシフェスでは、ヨシ舟に乗る体験をメニューに入れたいそうですが、そのためには形状やパドルなど、もう少し工夫が必要だそうです。
ヨシフェスの会場となっている場所には、ヨシの保管倉庫がいくつか建っています。ヨシ刈りは冬の寒い時期に行われますが、1年のサイクルで考えて、次にヨシ刈りをする時に倉庫の中が空っぽになっていることが理想なのだそうです。現状はどうなのか尋ねてみると、空っぽになる程には出ておらず残っていることが多いとのことでした。「この活動を通じて、1年間で倉庫が空っぽになることをめざしています」。いろいろな使い方ができることを知ってもらうためには、具体的なものを見せていかなくてはなりません。このフェスの狙いのひとつです。
会場に着いた時からずっと聴こえていたのは、よし笛です。よし笛の音色が心地よく、会場内を温かく包み込んでいました。最初はヨシの保管倉庫の前で演奏されていたのですが、みなさんが冷たい風に身を固くしていることから、少し倉庫の中に入ったところに会場がしつらえられました。そうすると、保管してあるヨシにぐっと近づき、それはそれでいい感じです。懐かしい曲も多く、聞いているみなさんの手拍子や歌声も聞こえてきて、アットホームな感じが伝わってきます。演者は、近江八幡市内に在住の方で、よし笛の演奏活動をされている方だそうです。
このフェスでは、滋賀県立大学近江楽座の2団体「竹林GAKU」「あかりんちゅ」と連携しています。連携が始まって今年で3回目になるそうで、「竹林GAKU」は放置竹林整備で回収した竹を活用した竹灯籠、「あかりんちゅ」はお寺から廃棄されたろうそくを使ったリサイクルキャンドルで参加しています。会場やヨシ笛コンサートの周りに竹灯籠が並べられています。
だんだん時間が過ぎ、準備が始まりました。
これは、リサイクルキャンドル。風が強いので、なかなか火が点きません。
学生のみなさんが苦戦されている中、竹灯籠にも灯りがつきました。
竹灯籠とリサイクルキャンドルのコラボレーションです。
ヨシズトンネルの灯りもきれいです。
どんどん暗くなっていき、会場は幻想的な雰囲気に包み込まれていきます。
午後からだけの参加でしたが、多彩なメニューで多くの方が楽しんだ様子が伝わってきました。
「近辺の小学生や地元の方が来てくれるようになって、うれしいです」と副会長の宮尾陽介さん。工芸品などヨシ製品の開発や作製を進めるだけでは、需要を喚起することはできません。「今回は『五感で楽しむ』というサブタイトルをつけました。ヨシを通じて、食べたり、触ったり、聴いたり、香りを楽しんだり、いろいろな楽しみ方を体感してもらいたいのです。その体感があると、きっと何かの機会にヨシのことを思い出してもらえるのではないかと思います」とのことです。関心が持てるテーマはひとりひとり違うので、関心を持ってくれる人を増やしていくためには、あれもやってみよう、これもやってみようという多方面へ取り組む気持ちが大切なのだなあと思いました。