暮らしの知恵を次世代へ継承する栃の実プロジェクト /久多里山協会
事業の概要
京都府左京区久多地域に伝わる、栃の実加工の技術は、伝えるひとの高齢化によっていつ途絶えるかわかりません。そこで希望者を募って栃の実を拾い、あく抜きや皮むきを習い、次世代へ伝えていきます。

2025年1月12日(日)、京都市左京区久多まで「久多里山協会」を訪ねました。
久多は、左京区の最北端に位置します。集落内を流れる久多川は、滋賀県西部を流れる安曇川上流部の支流です。高度経済成長期以前に盛んであった林業では、山から出した木を久多川から針畑川、そして安曇川へと筏で運んでいたこともあり、滋賀県、特に朽木村(現 高島市朽木地区)との結びつきも強い地域だそうです。
年始の寒波のあと、周辺の地域にはまだ雪が残っていましたが、久多里山協会が取り組む「暮らしの知恵を次世代へ継承する栃の実プロジェクト」の「栃の実の皮はぎ」を取材しました。
同会が取り組んでいるプロジェクトは、メンバーでもある地域住民の小南道子さんからトチノミの加工工程を学び、教科書のようにまとめ、その技を次世代へとつなげたい、という活動です。小南さんは以前、里の駅大原で毎週日曜に行われる「大原ふれあい朝市」において栃餅の販売を行っておられたそうです。2019年度からは「京都府農山漁村伝承技能登録・認定制度」により栃餅づくりの「農の匠」として認定も受けておられるトチノミ加工技術の持ち主です。
小南道子さん 「とちへぎ(後述)」を解説中
トチノミの食用には複雑な工程を要する
トチノキは落葉広葉樹で、実は古くから貴重な食料源として重宝され、地域の山々に大事に残されてきました。里山への出入りも減ってきた昨今ですが、特産品として栃餅などに加工され、道の駅などで目にすることがあります。木から落ちたトチノミは、一週間ほどで拾わないといけないそうです。ただ、シカが増えた山では、シカより先に取りに行くか、柵などで囲い獣害を防ぐなど対策をする必要があります。
同会副理事長の常本治さんによると、以前から同会でトチノミ拾いをして加工される方へ販売していたそうです。今年度は同プロジェクトで9月にトチノミ拾いを企画。参加者20名ほどとともに片道40分の山道をトチノキの元へ向かいましたが、例年60kgほどを集めるエリアでほとんど拾えず、空振りに終わったと言います。「助成金を使って、夏にシカよけを広げた場所でなんとか20kg拾えた」と助成金活用の効果を話してくださいました。
貴重なトチノミは、乾燥、浸水の工程を経て、この日の「栃の実の皮はぎ」に使われました。
水温を確かめる小南さん「ぬるめの風呂ぐらいの温度」とのこと
トチの硬い皮をむくためには「とちへぎ」という道具が使われます。座った足の下に長い部分を入れて押さえ、短い部分を持ち上げてトチノミをはさみ、押しつけながら実を回して皮の外周にヒビを入れていきます。長年使われた「とちへぎ」は実が挟まる部分がへこみ、くぼんでいるほどです。
小南さんから使い方を教わりながら、メンバーの小学生のお孫さんもチャレンジしました。体重をかけて力を入れないとヒビが入りません。
「とちへぎ」カヤやカシの木が使われるそうだ
この日、雪模様の1日でしたので一般の参加はなく、同会のメンバーやそのご家族が集まられました。シニア層のメンバーも技を習得するため、小南さんから学んでいるそうです。
トチノミの加工工程を尋ねてみました。皮をむいてからも、川の水など流水に浸け、木灰を使ったあく抜きと作業が続くようでした。
このあく抜き作業で味と、色合いが仕上がるそうですが、小南さんですら「いい色に仕上がるのは『アカトチ』って言うけれど、10回に1回ぐらいかなぁ」と難しさをおっしゃられていました。あく抜きの工程は翌週に実施されました。京都から交流がある方など3名の参加があったとのことでした。
にぎやかに様々な話が交わされながら、皮むき作業が進んでいました。割ったトチのなかには、黒ずんでぼろぼろと崩れるものも多く、木から落ちて拾うタイミングのせいか、多くが傷んでいたようでした。
皮の中で傷んでいたトチノミ
きれいなトチノミ 栗よりもやや硬い
良い状態の実の方が少なかったかもれない(中央が傷んだもの)
事業担当の松瀬萌子さんから、加工工程に伝わる地域特有の決まりごとがいろいろあることを教わりました。久多に伝えられてきた技を守り継ごうというメンバー皆さんの熱意を感じる機会でした。
あく抜きで混ぜる作業には「フクラシの木」が使われるという