タネから始める琵琶湖源流の森づくり /タネカラプロジェクト
事業の概要
琵琶湖源流域にある朽木の森の人工林皆伐跡地に広葉樹林の自然林再生を促すために活動しています。特に、地域の山の樹木から種を拾い育苗に取り組み、植樹。植樹地の管理や育苗、秋には種拾いのイベントも行います。
2025年10月7日(火)タネカラプロジェクトの活動訪問に伺いました。
タネカラプロジェクトは2024年度にファーストステップ助成に採択され、2025年度からは一般助成の採択団体として活動をされています。
集合場所は滋賀県高島市朽木 針畑地区にある源流の駅「山帰来」で、大津市からは
車で約1時間、JR湖西線・近江高島駅からは車で40~50分ほどの道のりです。
公共交通機関を利用する場合は、高島駅から路線バスを乗り継いでアクセスできます。
山々に囲まれた自然豊かな道を進みながら、目的地に近づくにつれて空気が澄んでいくのを感じました。
この日、生杉のブナ原生林周辺にて森の観察会「森の案内人・三浦豊さんと木々のストーリーをたどるひととき」が開催されました。約2時間かけて原生林を歩きながら森を観察し、その後にはフリートークが行われました。参加者は大学生から70代まで幅広い世代の一般参加者に加え、スタッフ4名を含む計21名でした。
代表の清水さんは、4年前に滋賀県が実施する森林環境学習「やまのこ」の指導員を務めていた際に三浦さんと出会いました。そのときに抱いた「生杉ブナ原生林を三浦さんに案内していただきたい」という思いが、助成金の活用によって実現しました。
当日は、まず講師の簡単な紹介と講座の詳細が伝えられた後、参加者はそれぞれ車に分乗し、山帰来から生杉ブナ原生林の登山口へ向かいました。
登山口までは約10分の距離です。
森にはヤマビルが生息しているため、参加者には事前に「肌の露出を避ける服装」「長靴」「長めの靴下の着用」などの呼びかけがありました。
到着後は足元に忌避スプレーをかけ、万が一に備えて食塩水も準備されていました。さらに今年は熊の目撃情報が多いことから、熊スプレーの用意もされ、森の中では単独行動をしないよう注意喚起がありました。
生杉のブナ原生林のスタート地点で「目を閉じて象の耳になり、自然の水脈を流れる美しい水の音に耳を澄ませてみてください」という言葉があり、静けさの中で水の音に耳を傾けながら森の案内が始まりました。
事前に配られた2枚の資料には、これから森で出会う木々の名前が20種類記されていました。参加者はそれぞれのバインダーに資料を挟み込み、説明を聞きながら熱心にメモを取り、木々に直接触れたり写真を撮ったりしながら記録を残して歩みを進めていきました。
森の案内で紹介された植物のひとつが「日陰葛(ヒカゲカズラ)」です。
岩手県では約4億年前の植物の胞子化石が発見されており、近年の研究によって現在山に生えている日陰葛の仲間であることが分かっています。つまり、日本で確認された最も古い植物のひとつが、生杉の森にも生息しているのです。
三浦さんによる森の案内は分かりやすく楽しく、時間があっという間に過ぎました。
予定の時刻となり、三浦さんから「ここで引き返しましょう」と声がかかりましたが、代表の清水さんから「もう少し先まで行きましょう!」との提案があり、さらに進むことになりました。
少し歩みを進めると、猿梨(サルナシ)の実がたくさん実っているのが見られました。清水さんは「参加者の皆さんにぜひ味わっていただきたい」との思いから、枝切ばさみを使って丁寧に収穫。さらに、その場にいた参加者も協力し、全員に行き渡るように枝から実を採り分けました。
猿梨は山に自生するマタタビ科のつる性植物で、キウイフルーツの仲間です。
果実は小さな緑色で、キウイのような果肉をしており、口にすると甘みと酸味が広がり、森の恵みをみんなで味わうひとときとなりました。
森の案内の最後に広がった風景は、水の循環が山の頂まで木々を育んでいることを示していました。
案内人の三浦さんから、この生杉の森が昔ながらの姿を保ち続けていることの素晴らしさを教えていただき、自然の営みの尊さを改めて感じることができました。
その後、「タネカラプロジェクト」の苗の育成場所へ車で移動しました。
ここでは地域の森で採取した種を育てており、現在85種類・約3,000本の苗が管理されています。近隣の森は、鹿による食害や無秩序な伐採、風雪害などによって植生が乱れ、植物の多様性が失われてきたそうです。こうした課題に向き合い、未来へ森の循環をつなげていくために「地域の森は地域の種で再生したい」という想いから2022年より森を守る活動を始められています。
種は乾燥すると発芽しないため、すぐに播く必要があります。
育苗用のコンテナや土・肥料に加え、鹿や鳥から苗を守るためのネットやロープなどの資材は、助成金を活用して整えられています。
秋には親子参加型の自然観察会を兼ねて採取が行われ、種が落ちる時期にはメンバーがほぼ毎日森へ出向き、鹿との“種の取り合い”をしながら根気強く拾っているそうです。
苗木は近隣のメンバーが毎日、苗場裏手の川からポンプで水をくみ上げて散水し管理しています。
次に、植樹地「たねの森」へ案内していただきました。
苗場から丸太橋で川を渡り、徒歩でおよそ3分ほどの場所にあります。
ここは杉伐採後の斜面を借用・所有し、地域由来の苗木を植栽している場所です。
ピンクの紐で植栽場所を示し、自然配植技術を取り入れながら経過観察を継続し、森の再生と斜面の緑化による土砂災害リスク低減を目指し取り組んでいるそうです。
最後に生杉区集会所でフリートークが行われました。
朽木生杉集落は約10戸・人口16人と小規模ですが、活動には地元住民だけでなく移住者や近隣市、遠方からも参加があります。
自然体験や「種から木へ」の育成を目指す活動に共感する人々が集い、毎年参加する親子もいます。子どもたちと発芽や成長を体験する教育的効果や、活動日に人の往来が生まれることで静かな集落に賑わいが戻る地域活性化の効果もあるとのことでした。学校行事での活動紹介や苗の配布を通じて住民の理解と関与が広がり、地域全体で森づくりを支える意識が育まれています。
今回の参加者には滋賀県立大学環境建築デザイン学科の先生や学生、同じく夏原グラントに採択されている「宇治きこりの会」、木工作家など多様な立場の方が加わり、それぞれ環境との向き合い方を学ぶ機会となりました。
三浦さんからは「木材伐採が減り木が増えたことで鹿が増えた。人間には獣害だが森には良い傾向」との指摘があり、「保全とは何かを今一度考える時がきている」との言葉が印象的で、参加したそれぞれが今後の保全のあり方を考える契機となっていました。
地域の種を苗に育て山へ植える活動は、森の保全にとって重要な役割を果たすだけでなく、地域の未来を支える営みであることを実感し、参加者全員にとって意義深い一日となりました。




